相続税専門税理士の富山です。
今回は、「名義変更等が行われた後にその取消し等があった場合の贈与税の取扱いについて」通達について、お話します。
贈与をするともらった人に贈与税が課税される
通常、多額の預貯金の贈与、または、評価額の高い財産の贈与をする場合、「あげる人」は「贈与税がいくらかかるか?」を計算してから贈与すべきです。
しかし、贈与には贈与税がかかることを知らずに贈与したり、贈与税のことが頭をよぎっても「まあ大丈夫だろう」と軽く考えて具体的に確認せずに贈与したりする場合があります(結構あります)。
しかし、贈与税を納付するのは「もらった人」です(多額の贈与税が発生する場合、納税で大変な目に遭うのは「あげた人」ではなく「もらった人」です)。
「もらった人」も贈与の時にはありがたくもらったけれども、後で贈与税の負担の重さに気付く場合があります。
このような場合、贈与は無かったことにできるのでしょうか?
取消し可能な贈与・不可能な贈与
民法(一部抜粋)
(書面によらない贈与の解除)
第五百五十条 書面によらない贈与は、各当事者が解除をすることができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。
上記によれば、
ただし、既に贈与が終わっている部分については、無かったことにできない
逆に言うと、書面による贈与の約束は、無かったことにできない
贈与の成立要因
ところで、「贈与」はそもそもどのように成立するのでしょうか?
(贈与)
第五百四十九条 贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。
贈与は、「あげますよ」「もらいます、ありがとう」という双方の意思表示により成立します。
この意思表示がない場合には、贈与自体が成立していません。
勘違いや間違いによる意思表示
(錯誤)
第九十五条 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
錯誤(勘違いや間違い)に基づく意思表示は、取消すことが可能です。
つまり、錯誤(勘違いや間違い)による贈与は取消すことができる、ということになります。
上記通達にも、次のような前文があります。
国税庁HP(一部抜粋加工)
しかし、財産の名義変更又は他人名義による財産の取得が行われた場合においても、それが贈与の意思に基づくものでなく、他のやむを得ない理由に基づいて行われる場合又はこれらの行為が権利者の錯誤に基づいて行われた場合等においては、その例外となることはいうまでもない。ただ、その名義変更又は他人名義による財産の取得が果たしてそのような事由に該当して行われたものであるかどうかの判断については、これを確認するに足りる客観的な事実の申出又は証拠の提供が不可能な場合が多く、かなり困難を伴うことである。
そこで、財産の名義変更又は他人名義による財産の取得があった場合においてこれらの行為が贈与の意思に基づかないで、又は錯誤により行われたかどうかの判断については、財産の権利者の表示を明らかにすることも併せ考え、財産の名義人とその権利者とを一致させることによることとするとともに、贈与契約の取消し等があった場合の取扱いを定めたものである。
取消し贈与に対して贈与税が課税されない要件
下記通達の「原則」(太字部分)にあるとおり、贈与を取消すことができても、原則として、贈与税は課税されます。
ただし、
贈与税を課税すると課税負担の公平を著しく害することになる(それは納税者がそう感じればいいと言うのではなく「税務署長」が認めるレベル)
(合意解除等による贈与の取消しがあった場合の特例)
4 通達「11」により、贈与契約が合意により取り消され、又は解除された場合においても、原則として、当該贈与契約に係る財産の価額は、贈与税の課税価格に算入するのであるが、当事者の合意による取消し又は解除が次に掲げる事由のいずれにも該当しているときは、税務署長において当該贈与契約に係る財産の価額を贈与税の課税価格に算入することが著しく負担の公平を害する結果となると認める場合に限り、当該贈与はなかったものとして取り扱うことができるものとする。(1) 贈与契約の取消し又は解除が当該贈与のあった日の属する年分の贈与税の申告書の提出期限までに行われたものであり、かつ、その取消し又は解除されたことが当該贈与に係る財産の名義を変更したこと等により確認できること。
(2) 贈与契約に係る財産が、受贈者によって処分され、若しくは担保物件その他の財産権の目的とされ、又は受贈者の租税その他の債務に関して差押えその他の処分の目的とされていないこと。
(3) 当該贈与契約に係る財産について贈与者又は受贈者が譲渡所得又は非課税貯蓄等に関する所得税その他の租税の申告又は届出をしていないこと。
(4) 当該贈与契約に係る財産の受贈者が当該財産の果実を収受していないこと、又は収受している場合には、その果実を贈与者に引き渡していること。
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