【毎日更新】相続税専門税理士ブログ

相続税評価額よりも高い金額で売買すればみなし贈与で課税されない?

相続税専門税理士の富山です。

今回は、孫が祖母から土地建物を購入した際の金額(売買金額)について、「時価より安いからみなし贈与だ!」と争われた裁決事例について、お話します。

出典:TAINS(J65-4-40)(一部抜粋加工)
平15-06-19裁決


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親族間の土地建物の売買取引は「お手盛り」取引とみられやすい

請求人及び譲渡人は、相続関係において直系的なつながりをもち、また贈与が最も発生しやすい間柄であり、いわば、売買価額を自由に設定できる事情にある当事者であるという関係が存すること及び上記のとおり13,538,875円という多額の価額差が生じていること等から、それらを総合的に勘案すれば、贈与税負担における公平バランスを担保する趣旨で規定された相続税法第7条にいう「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合」に該当することは明らかである

土地や建物は、時価で売買することが原則となります。

パン屋さんにパンを買いに行って、100円のパンを買ったのに、30円しか払わなかったらオカシイですよね。

この場合、その買ったパンには「100円」の値札が付いていますが、土地や建物には値札が付いていません。

つまり、「一体いくらで売買すればいいのか?」という問題が生じます。

「別にそんなの、お互いが納得する金額で売買すればいいのでは?」と思われるかもしれません。

基本的にはそうなのですが、上記のパン屋さんが祖母で、パンを買いに行ったのが孫だった場合、パン屋さんは自分の孫だから30円で売っているかもしれません。

このパンの販売については、税務署はうるさく言わないと思われますが(金額が小さな取引だから問題にしなくてもいい、ということにはなりませんが)、これが土地建物だったら、話は全然違ってきます。

税務署は、「親族間でうまくやっている(自分たちの都合のいいように売買金額を設定している)だろう、それなら、孫が安く(著しく低い金額で安く)買えた分だけ、孫は贈与(みなし贈与)を受けているのと同じだ」と考えるのです。

想う相続税理士

こちらの記事もご覧ください。
土地や建物は路線価や固定資産税評価額で売買していい?

安い金額で売買したつもりがなければみなし贈与は成立しない?

民法(一部抜粋)
(贈与)
第五百四十九条 贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。

贈与が成立するためには、上記のとおり、「あげる方の意思」「もらう方の承諾」が必要です。

そんなことを考えずに売買した、という場合には、お互いが贈与を認識していない、つまり、お互いの贈与の意思や贈与の承諾がない、ということになりますから、贈与税は課税されないのでしょうか?

実は、みなし贈与の場合には、それ(お互いの意思・承諾の有無)は関係ありません。

請求人は、本件不動産の取得は、贈与税の負担回避を目的としたものではなく、本件不動産の売買に係る当事者に、贈与する意思が全くないことからも、本件通達を基に行われた本件決定処分は違法である旨主張する。
しかしながら、相続税法第7条は、「法律的には贈与とはいえないとしても、実質的には贈与と同視できる」こと、また「課説の公平負担の見地から、対価と時価との差額について贈与があったものとみなす」ことにより贈与税を課すものであることから、請求人が主張する「贈与税の負担回避の目的の有無」及び「当事者に贈与の意思の有無」は、同法の適用に当たり何ら影響を及ぼすものではない。
したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

国税庁HPにも次のような記載があります。

想う相続税理士秘書

国税庁HP(一部抜粋)
相続税法においては、法律的には贈与により取得したとはいえないが、財産を取得した事実や経済的な利益を受けた事実によって、実質的に贈与と同様の経済効果が生ずる場合には、税負担の公平の見地から、その取得した財産を贈与により取得したものとみなして贈与税の課税財産とする旨規定されている(相続税5条から9条の5)。

みなし贈与に該当するか?

この事例では、次のように「みなし贈与に該当しない」とされました。

相続税法第7条の規定の適用に当たっては、上記ロの(ハ)のとおり、当該財産に係る譲受けの事情、譲受価額、市場価額及び相続税評価額などを総合勘案して社会通念に従い「著しく低い価額の対価」に該当するか否か判断すべきものであるところ、本件の場合、

①上記イの(ロ)のA及びBのとおり、譲渡人は高齢となり、アパート経営及び管理が煩わしくなったこと及び譲渡人自身の借入金を返済することから、本件不動産を譲渡したものであり、請求人は将来のことなどを考えて、金融機関からの借入金を基に本件不動産を取得したこと、

②上記イの(ロ)のCのとおり、本件不動産の売買価額は、父が不動産業者から相場を聞き、固定資産税評価額を参考に、利用形態を考慮して決定したものであること、③仮に原処分庁が主張する本件土地の価額(時価)65,538,875円が本件土地の通常の取引価額であるとしても、本件土地の譲受価額が52,000,000円であり、その譲受価額がその時価に占める割合は79.3%であること、

④譲渡人は、上記イの(ニ)のとおり、本件不動産を相続により取得したもので、長期間所有していた本件不動産を譲渡したものであること及び⑤本件不動産の譲受価額が71,950,000円であるところ、次のとおり本件不動産の相続税評価額は69,236,309円であり、その譲受価額がその相続税評価額を上回っていること

を総合勘案すると、本件土地の譲受けは、相続税法第7条に規定する「著しく低い価額の対価」による譲受けに該当しないとするのが相当

上記の記事でも触れた通達「負担付贈与又は対価を伴う取引により取得した土地等及び家屋等に係る評価並びに相続税法第7条及び第9条の規定の適用について」の適用(運用)については、次のように判断しています。

想う相続税理士秘書

本件通達の趣旨は、土地等及び家屋等の不動産の通常の取引価額と相続税評価額との開きに着目しての贈与税の負担回避行為に対して、税負担の公平を図るため、負担付贈与又は対価を伴う取引により取得した土地等及び家屋等に係る価額は、評価基本通達にかかわらず、通常の取引価額に相当する金額によって評価することとしたものであり、本件通達の適用に当たっては、本件通達が制定された当時における地価の動向及び路線価の時価に対する水準を考慮しなければならない。
すなわち、本件通達の制定された当時は、路線価の時価に対する水準が公示価格の70%相当を目途としていたにもかかわらず、その後の地価の急騰に伴い、路線価がその適用年分の終わりに時価の20%から30%程度にすぎず、路線価に相当する金額を対価とした負担付贈与や低額譲受けという形式を採ることによる実質的な財産の移転が行われるようになり、これを放置することは、課税の公平の見地からみて弊害があることから、当該財産の価額は、評価基本通達にかかわらず、通常の取引価額に相当する金額によって評価することとする取扱いが定められたものである。

想う相続税理士

だからと言って、安く売買してもいい、という訳ではありません(税務署の職員の方がこの判断のように考えないこともある)ので、ご注意を。