相続税専門税理士の富山です。
今回は、相続税の更正の請求期限について、お話します。
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相続税の申告期限までに遺産分けの話し合いがまとまらなかった場合
相続税の申告期限は、死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月目の日です。
相続人間で遺産分けの話し合いがまとまらなくても、10ヶ月以内に申告と納付をする必要があります(税務署は待ってくれません)。
このような場合には、民法に規定する相続分等の割合に従って財産を取得したものとして相続税の計算をし、申告と納付をすることになります。
つまり、財産を実際に取得していなくても(手許に財産が来ていなくても)、財産を取得したものとみなされて、相続税が課税されるのです。
実際に遺産分けが確定して相続税が納め過ぎになった場合
相続税法(一部抜粋加工)
第32条 更正の請求の特則
相続税又は贈与税について申告書を提出した者又は決定を受けた者は、次の各号のいずれかに該当する事由により当該申告又は決定に係る課税価格及び相続税額又は贈与税額が過大となつたときは、当該各号に規定する事由が生じたことを知つた日の翌日から4月以内に限り、納税地の所轄税務署長に対し、その課税価格及び相続税額又は贈与税額につき更正の請求をすることができる。
一 第55条の規定により分割されていない財産について民法の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従つて課税価格が計算されていた場合において、その後当該財産の分割が行われ、共同相続人又は包括受遺者が当該分割により取得した財産に係る課税価格が当該相続分又は包括遺贈の割合に従つて計算された課税価格と異なることとなつたこと。
遺産分けの話し合いがまとまらず、遺産未分割の状態で相続税の申告をし、法定相続分相当額の財産に対する相続税として1,000万円の相続税を自腹で納付したとします。
その後、遺産分けの話し合いがまとまって、実際に取得した財産に対する相続税が700万円である、ということになった場合、納め過ぎった300万円(=1,000万円△700万円)を税務署に返してもらうことができるのですが(「更正の請求」といいます)、それには「その事由が生じたことを知った日の翌日から4ヶ月以内」という期限があります。
家庭裁判所での調停継続中に事実上相続放棄をしたことが調停調書に記載された場合
それでは、家庭裁判所での調停中に相続人の1人だけが事実上の相続放棄をし、そのことが調停調書に記載され、他の相続人がまだ遺産分割の調停を継続している、という場合、その時点で更正の請求をすることはできるのでしょうか?
国税庁HP・質疑応答事例(一部抜粋)
共同相続人の1人が遺産分割の調停において相続財産を取得しないことが確定した場合の相続税法第32条第1項の規定に基づく更正の請求
【照会要旨】
○年に相続開始しましたが、相続税の申告期限までに遺産分割協議が整わなかったことから、相続税法第55条の規定に基づき、法定相続分の割合で相続財産を取得したものとして相続税を計算し申告しました。
その後、家庭裁判所の遺産分割の調停において、共同相続人(4人)のうちの1人である甲が相続を事実上放棄し、同年12月、その旨が調停調書に記載されました。
甲は、この調停から4月以内に相続税法第32条第1項の規定に基づく更正の請求をすることができますか。なお、遺産分割の調停は継続しています。
【回答要旨】
遺産分割は、全ての相続人等の協議又は家庭裁判所の審判(調停)によって行われ、この場合、遺産の一部について行うこともでき、また遺産分割の結果、相続人等のうちの一部の者が相続財産を取得しないこととなっても差し支えないものとされています。
したがって、照会のケースは典型的な「分割」ではありませんが、甲は調停により相続財産を取得しないことが確定していることから、相続税法第32条第1項第1号の規定に該当しますので、更正の請求が認められます。
なお、この場合、他の3人の相続人は修正申告をする必要があります。
全体の遺産分けが確定していなくても、その事実上の相続放棄をした相続人の財産の取り分が調停で確定すれば、「その事由が生じたことを知った日の翌日から4ヶ月以内」に更正の請求をすることができる、ということになります。
想う相続税理士
4人のうちの1人が事実上の相続放棄をしたということになると、分母が1(1人)減って1/3(約33%)相当の財産を各々の相続人の方が取得したものとみなされるため、すでに納付した1/4(25%)相当に対する相続税では少ない、ということになり、追加の納税義務が生じるため、修正申告をする必要があります。