相続税専門税理士の富山です。
今回は、重加算税に関する過去の判決事例について、お話します。
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亡くなった日時点の残高を計上する
相続税は、原則として、亡くなった日時点の財産に対して課税されます。
亡くなった日時点に「現金があった」のであれば、その現金の残高を計上します。
どこかに隠したとしても、どこかに「現金があった」のであれば、その現金の残高を計上する必要があります。
口座からお金を引き出しても相続税の節税にはならない
預貯金についても現金と同様、亡くなった日時点の残高が相続税の課税対象となります。
亡くなる前に預貯金口座からお金を引き出せば、預貯金の残高は減ります。
しかし、減った分だけ現金の残高が増えるため、預貯金という財産が減って、現金という財産が同じ金額だけ増えることになります。
葬式費用に使った場合でも現金として計上する
亡くなる前に預貯金口座から引き出したお金を、亡くなった方の葬式費用に充てたとしたら、どうでしょうか?
「葬式費用は相続税の申告ではプラスの財産からマイナスできる」ということをご存知の方も多いと思います。
それはそのとおりなのですが、亡くなった日時点で「現金があった」のは間違いありませんから、現金として申告する必要があります。
その上で、「債務控除」をすることで、葬式費用をマイナスします。
「結果は同じじゃないの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、葬式費用と言われるものの中には、債務控除できないものも含まれていたりするので(香典返戻費用等)、結果は同じにならないことがほとんどです。
想う相続税理士秘書
現金の残高は税理士には分からない
相続税の申告を税理士に依頼した場合、税理士は、預貯金の残高であれば、金融機関が発行した残高証明書等で確認することができますが、現金の残高については分かりません。
相続人の方等に教えていただく必要があります。
税理士は職業上、現金の残高について相続人の方等に細かく確認することになります。
現金は、相続税の税務調査でも主要な論点になりますので、それを知っている税理士ほど、しつこく確認することでしょう。
その確認をうまいことノラリクラリとかわして、税理士にできるだけ少なく申告させれば(そんなことをしてはいけないのですが)、後で追加で修正申告することになったとしても、重加算税は課税されないのでしょうか?
現金の金額を税理士に考えさせた
出典:TAINS(Z268-13147)(一部抜粋加工)
平成30年4月24日判決
上記の判決の内容を見ていきます。
相続財産である現金の有無に関しては、本件税理士は原告に何度も確認したが、原告はその度に違う話題(例えば、所得税の還付申告の可否に関し、いわゆるリーマンショック時に生じた株式譲渡損失と配当所得の損益通算をすることができるか否かなど)を持ち出して話をそらしたため、明確な回答を得ることができなかった。そのため、本件税理士は、やむなく、本件相続開始日の当日に50万円が引き出されていたこと等を考慮して、少なくとも本件相続開始日において70万円はあったであろうと考え、相続財産である現金の額を70万円とする旨の記載をした本件申告書を作成した。前記(2)のとおり、原告は、本件相続開始日において2000万円を超える額の現金を保管していたにもかかわらず、本件税理士から本件申告書を示して現金の額を70万円とした旨の説明を受けた際にも、ただうなずくばかりで、これを超える金額の現金が存在することを指摘しなかった
相続税の申告に際して、生前のお金の動きを精査するのは結構大変な場合が多いです。
相続人の方等が協力してくださらなければ、税理士は正しい金額を申告することができません。
財産から除外する意図を有していたと認めるのが相当
こうした原告の一連の行動は、多額の現金を保管している事実を税理士から知られないように意図して行われたものと評価することができ、相続財産を過少に申告するという上記の意図を外部からもうかがい得る特段の行動に当たると認めるのが相当である
税理士が相続財産である現金の有無やその金額を適切に把握することができず、実際に保管されていた現金の金額を著しく下回る70万円という金額を記載した本件申告書を作成し、杉並税務署長に提出することとなったのは、過少申告の意図が外部からもうかがい得る原告の特段の行動の結果、その意図に基づく申告がされたものであることは明らかである
原告は、当初から過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上で、その意図に基づく過少申告をしたと認められるから、本件現金の申告漏れについては、通則法68条1項所定の重加算税の賦課要件を満たすものであり、本件賦課決定処分は適法である
後からでも追加で申告すれば大丈夫(重加算税は課税されない)、という訳ではありません。
最初からちゃんと申告する必要があります。
隠そうとすればするほど、その行為が、重加算税の課税の確率を高めます。
想う相続税理士
内容は名義預金系なのですが、お話をお伺いしていると、財産を隠す意図が無かったのに、税務署にそう取られてしまった、ということのようです。
かなりお怒りのご様子でしたが、「知らなかった」ということがどこまで許されるのか、ということを考えさせられました。
相続税の申告をする上では、その税務的な考え方をきちんと理解した上で財産を計上しないと(お客様にきちんとご説明してご理解・ご納得いただいた上で申告しないと)後で大変なことになる、ということです。