【毎日更新】相続税専門税理士ブログ

家の中で見つからない相続開始前日に引き出された多額の現金を税務署はどう判断する?

相続税専門税理士の富山です。

今回は、相続開始の前日に解約して受け取った現金が相続財産に入るのかが争われた裁決事例について、お話します。

出典:TAINS(F0-3-614)(一部抜粋加工)
平30-04-24裁決


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相続開始の前日に多額の出金があったらどうなる?

この事案では、被相続人(亡くなった方)が相続開始の前日に、農協で定期貯金3口座を解約し、合計約2,200万円を現金で受領しています。

その後、被相続人は帰宅して現金を持って自宅に入りました。

そして、その日の午後11時頃に自宅で死亡し、相続が開始しています。

相続人側(請求人ら)は、相続税申告においてこの現金を相続財産に入れていませんでしたが、税務署側(原処分庁)が「相続開始時に存在していたはずだ」として更正処分等を行い、相続人側が取消しを求めて争いになりました。

「使った」「渡した」を裏付ける痕跡がないとどうなる?

審判所が重視したのは、相続開始までの時間が短い中で、本件金員(約2,200万円)を「痕跡なく」費消したと言えるだけの事情があるか、という点です。

具体的には、同居の相続人らが外出していた時間帯はあるものの、被相続人が現金を費消等するには、同居人に察知されない外出や来客との面会が必要であり、その機会は「相当に限定的」と整理されています。

また、約2,200万円という高額である以上、もし不動産など高額資産を購入したのであれば契約書や領収書等が残るのが通常だが、そのような書類が見当たらない点も重要視されました。

さらに、金融機関への入金、公租公課の納付、債務の弁済といった「お金の動き」も確認できず、ギャンブル等の趣味や贈与、盗難の形跡も見当たらないという事情が積み重なっています。

以上を踏まえ、審判所は「わずかな機会に、何の痕跡も残さずに」費消したとは考え難い、という方向で事実認定をしています。

自宅で保管していたと認められれば相続財産?

結論部分は、次のとおりです。

本件金員は、本件相続の開始時に本件被相続人が自宅で保管していたと認めるのが相当である。したがって、本件金員は、本件相続に係る相続財産である。

相続人側は、「第三者に渡した事情があったはずだ」「立証責任は原処分庁側にある」等の主張もしていますが、審判所は、上記のとおり「自宅保管が証拠上認められる」ことを前提に、主張を採用しませんでした。

相続の現場では、亡くなる直前の現金引出しについて「使ったはず」「誰かに渡したはず」「見つからないから無いはず」と考えたくなる場面が起こり得ます。

しかし、税務の目線では、金額が大きいほど、そして相続開始までの期間が短いほど、「使った」「渡した」のであれば何らかの痕跡が残るはず、と判断されます。

もし生前に多額の現金を動かす可能性がある場合には、後日の相続手続・相続税申告で説明できるよう、支払先が分かる書類ややり取りの記録を、できる範囲で整えておくことが安全策になります。

また、相続開始後に「現金があるはずなのに見当たらない」という場合には、捜索状況の整理(いつ・どこを・誰が・どう探したか)も含め、早めに専門家に相談し、申告方針(計上の要否、根拠資料の提出方法、調査対応の見立て)を組み立てることをお勧めします。

想う相続税理士

相続開始の直前に多額の現金を引き出している場合、「見つからない=無い」とは扱われにくく、本件のように、使途・移動を裏付ける痕跡が確認できない場合には、「相続開始時に自宅で保管していた」と認定され、相続財産として申告することになるでしょう。

直前の現金引出しがある相続では、事実関係の整理と資料の確保が、相続税申告の成否を左右し得ます。