【毎日更新】相続税専門税理士ブログ

「鑑定で『建物はゼロ円』」は通るのか?固定資産税評価額と時価の考え方

相続税専門税理士の富山です。

今回は、相続で取得した建物について、固定資産税評価額ベースではなく、不動産鑑定評価(解体前提)で評価すべきかどうかが争われた裁決事例について、お話します。

出典:TAINS(J114-4-08)(一部抜粋加工)
平31-02-20公表裁決


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相続税申告における時価と財産評価基本通達の立ち位置

相続税では、原則として「取得時(相続時)の時価」に基づいて財産を評価します。

しかし、この「時価」をどのように捉えるかが、実務上しばしば問題となります。

本件でも、請求人らは「建物は市場性がなく解体が必要なので、鑑定評価(解体を前提に土地から解体費用を控除)こそが時価だ」と主張しました。

一方で、課税庁は「財産評価基本通達(家屋は固定資産税評価額×1.0)に従うのが相当」として更正等を行っています。

この対立の前提として、裁決は「財産評価基本通達に基づく評価には一定の合理性がある」こと、そして課税庁が通達どおりに評価したことを主張立証できれば、その評価は時価を適正に評価したものと「事実上推認」される、という枠組みを示しています。

その上で、納税者側がその推認を覆すには、算定過程の不合理を具体的に指摘するか、合理性ある鑑定評価等で「通達評価が客観的交換価値を上回る」ことを主張立証する必要がある、という整理になります。

相続税法第22条は、相続財産の価額は、特別に定める場合を除き、当該財産の取得の時における時価によるべき旨を規定しており、ここにいう時価とは相続開始時における当該財産の客観的な交換価値をいうものと解するのが相当である。 そして、評価通達に基づく相続財産の評価の方法は、相続税法第22条が規定する財産の時価すなわち客観的交換価値を評価・算定する方法として一定の合理性を有するものと一般に認められ、その結果、評価通達は、単に課税庁の内部における課税処分に係る行為準則であるというにとどまらず、一般の納税者にとっても、相続税等の納税申告における財産評価について準拠すべき指針として通用してきているところである。

解体前提の鑑定評価(建物ゼロ+解体費用控除)は通る?

本件の対象となったのは、昭和45年建築の鉄骨・鉄筋コンクリート造、地下1階付8階建の建物と、その敷地です。

相続開始日は平成27年12月です。

建物は、相続開始時点で「地下1階と1階は貸店舗」「6階は被相続人らの居宅」として利用されていました。

一方で、2階から5階の一部は当時利用されていない階もありました。

請求人らは、不動産鑑定士の鑑定評価書を根拠に「最有効使用は解体除去を前提とすべき」として、建物価額を実質ゼロ扱いにし、土地についても「更地価格から解体除去費用(7,000万円)を控除」して申告しています。

これに対し、課税庁は「家屋は財産評価基本通達89(固定資産税評価額×1.0)による」などとして更正等を行いました。

争点はシンプルで、「評価通達の定めにより評価した不動産の価額は、時価を上回る違法があるか否か」です。

ここで重要なのは、単に「鑑定評価額と通達評価額が大きく乖離している」という主張だけでは足りず、鑑定評価の前提(最有効使用の判定や、解体が不可避であること)の合理性が厳しく見られる、という点です。

通達評価が時価であるという推認を覆せるか?

裁決はまず、鑑定評価書の「最有効使用の判定」が十分に比較考量されていない、と述べています。

つまり、現に賃貸用・居住用として利用され、経済価値が認められる部分があるのに、解体した場合との比較が尽くされていない、という見方です。

このため「解体が必要で市場性が全くない」とする結論に至った根拠が薄く、鑑定評価書自体の合理性が認められない方向になります。

そして、土地評価についても「更地価格から解体費用を控除する」手法は、前提である「解体が最有効使用として合理的」でなければ、時価を適正に評価したとは言い難い、と判断されています。

また、家屋の固定資産税評価額については、固定資産評価基準に従って決定されたものである限り、一定の推認が働きます。

裁決は、固定資産税評価額を時価と推認する最高裁判例の枠組みを踏まえつつ、例外として「再建築費を適切に算定できない特別の事情」または「基準の減点補正を超える減価を要する特別の事情」がある場合に限って、その推認が崩れ得る、という考え方で検討しています。

本件では、請求人らが主張した「評価額が長年据え置かれて減価が反映されていない」「特殊構造で再利用困難」「アスベストやPCB機器の処理が必要」といった事情について、いずれも「直ちに特別の事情に当たる」とまでは認められない、と整理されています。

結果として、通達評価が時価であるとの推認を覆すには至らず、評価通達に従った評価が相当、という結論になりました。

想う相続税理士

相続した建物が古い、使いづらい、将来は壊すかもしれない、という事情は現場でよくあります。

ただし「解体が必要だから建物はゼロ」「土地は更地価格から解体費用を控除」という評価を通すには、前提となる事実とロジックの積み上げが欠かせません。

一方で、家屋の評価は評価通達上、固定資産税評価額をベースにするのが原則であり、これを覆すハードルは高いのが実情です。

鑑定評価を使う場合は、最有効使用の判定が現状利用との比較を尽くしているか、解体が不可避といえる客観資料が揃うか、固定資産税評価額に「特別の事情」があると言えるか、等を事前に点検することが重要です。