【毎日更新】相続税専門税理士ブログ

相続分を放棄した相続人の更正の請求期限はどう考える?4ヶ月ルールが問題になった裁決事例

相続税専門税理士の富山です。

今回は、相続分を放棄して遺産分割事件から脱退した相続人が、いつ「遺産分割が確定したことを知った」と言えるのかが問題となった、相続税法第32条の更正の請求の特則に関する裁決事例について、お話します。

出典:TAINS(J75-4-36)(一部抜粋加工)
平20-01-31裁決


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相続税の更正の請求と「4ヶ月ルール」とは?

まず、相続税の更正の請求とは何かを、簡単に整理しておきます。

相続税の申告をした後で、「本当は相続税を払い過ぎていた」ということが分かった場合に、税務署に相続税を減らしてもらう(還付してもらう)ことを正式にお願いする手続きが「更正の請求」です。

相続税については、その税額計算に必須な要素となる遺産分けがかなり後になって決まるケースもあるため、相続税法第32条に「特別なルール(特則)」が用意されています。

そのうちの第1項第1号では、相続税の申告時点において遺産分けが決まっていなかったため、いわゆる「民法の相続分どおりに遺産分けしたものとみなして」申告しておいた場合において、その後、実際の遺産分けがまとまって各人が取得する財産の金額等が変わったときは、一定の要件のもとで、更正の請求ができる、とされています。

この場合の期限は、「その事由が生じたことを知った日の翌日から4ヶ月以内」とされています。

ここでポイントになるのが、「いつ、その事由が生じたことを知ったと言えるのか」という点です。

今回ご紹介する裁決事例では、まさにこの「知った日」がいつか、が大きな争点となりました。

相続分放棄で審判事件を脱退した相続人と遺産分割確定までの流れ

この裁決では、まず、次のような事実関係がありました。

お父様が亡くなり、法定相続人は、請求人(子)、母、兄、姉の4人でした。

兄が家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てましたが、調停は不成立となり、審判手続きに移行しました。

その途中で、請求人は自分の相続分をすべて放棄する内容の「相続分放棄証書」を作成し、これを添付して、遺産分割審判事件から脱退する旨の届出書(脱退届)を家庭裁判所に提出しました。

つまり、請求人は、途中で「私はもうこの遺産分割の話し合いからは抜けます。相続分もいりません」という立場を明確にしたことになります。

その後、家庭裁判所は、預貯金などの財産や不動産の大部分について、兄と姉が取得する内容の審判を行い、その審判の内容を兄と姉に告知しました。

姉はこの審判に不服があったため、高等裁判所に即時抗告をしましたが、高裁はこの抗告を棄却し、その結果、この審判は確定しました。

ここまでの流れの中で、家庭裁判所や高等裁判所は、すでに事件から脱退していた請求人には結果を通知していませんでした。

請求人が遺産分割が確定したことを実際に知ったのは、それからだいぶ時間がたった後のことでした。

ある暑い夏の日、久しぶりに実家に帰って墓参りをした帰りに、たまたま姉とその夫に会い、そこで初めて「遺産分割審判が終わり、実家のほとんどは兄が取得した」という話を聞いたのです。

請求人は、この日付をはっきり覚えており、その日が「平成18年8月29日」であると主張しました。

その後、請求人はすぐに税務署に相談に行き、9月15日に相続税の更正の請求をしています。

ところが、税務署は「更正の請求の期限は、遅くとも審判が行われた日から数えて4ヶ月であり、もう過ぎている」として、更正の請求を認めなかったのです。

「知った日」はいつか?審判所が納税者側の主張を認めたポイント

この裁決で審判所は、まず相続税法第32条第1項の「知った日」の解釈について、次のような考え方を示しています。

上記の共同相続人の相続分放棄証書を添付した上での審判からの脱退届出書の家庭裁判所への提出行為の法的性質、法的効果のみならず、他の共同相続人についてはいつ最終的な遺産分割の合意が成立し、あるいはこれに代わる審判の効力が生じたか等を斟酌してなすのが相当であるところ、本件においては、請求人以外の共同相続人が複数であるとともに、審判の告知がなされるのは当該請求人以外の共同相続人に対してであること等を踏まえれば、たとえ共同相続人のうちの一人に相続分の放棄をした者があったとしても、他の共同相続人間で遺産分割が確定したときに、当該相続分の放棄をした者を含めて全体として最終的な遺産分割と同様の効果を生ずると判断するのが相当であり、本件において当該効果を生ずる事実が発生したのは、他の共同相続人に対して本件抗告の棄却決定がなされた時と解するのが相当である。

つまり、「相続分を放棄して事件から脱退した相続人がいても、他の相続人の間で遺産分割が確定した時点で、全体としては最終的な遺産分割と同様の効果が生じる」と整理されています。

そのうえで重要なのは、「知った日」はいつか、という点です。

審判所は、相続税法第32条が「事実が確定した日」ではなく「事由が生じたことを知った日」とわざわざ定めていることに着目し、相続分を放棄して審判事件から脱退した相続人については、他の共同相続人間で遺産分割の審判が確定したことを、その人自身が実際に知った日が「知った日」になる、と解釈しました。

具体的には、請求人が姉から遺産分割の結果を聞いた平成18年8月29日を「知った日」と認定し、その翌日から4ヶ月以内である9月15日の更正の請求は、期限内であると判断しました。

このとき、審判所は、請求人の供述内容(いつ、どこで、どのような状況で姉から話を聞いたのか)をかなり細かく聞き取り、その内容に不自然な点がないこと、また、遺産分割が確定してからしばらくの間は更正の請求をしていない一方で、その事実を知った直後に税務署へ相談し、すぐ更正の請求をしている行動の流れにも矛盾がないことなどから、請求人の主張は信用できると判断しました。

その結果、審判所は、税務署が行った「更正すべき理由がない旨の通知処分」を全部取り消し、更正の請求は期限内であり、内容も相当であると結論づけています。

想う相続税理士

「知った日」を明確にしましょう。