相続税専門税理士の富山です。
今回は、お母様から受けた現金の贈与を「雑所得」だと誤解して所得税等の確定申告をしていたケースにおける、贈与税の無申告加算税に関する裁決事例について、お話します。
出典:TAINS(F0-3-602)(一部抜粋加工)
平30-03-07裁決
現金の贈与について所得税等の確定申告をしたら?
この裁決は、お母様から現金の贈与を受けた方が、贈与税の申告を期限内に提出しなかったことが発端となっています。
その方は、受け取った現金を「雑所得」に含めて、「所得税及び復興特別所得税(所得税等)」の確定申告自体は法定申告期限内に完了していました。
しかも、その所得税等の確定申告書には、贈与契約書の写しまで添付して提出していました。
ところが後になって、贈与は所得税ではなく贈与税の申告が必要だったと指摘を受けます。
指摘のきっかけは、贈与者(お母様)が死亡した後、相続税申告の相談をした際だったと整理されています。
その指摘を受けて、本人は贈与税の期限後申告を行いました。
税務署(原処分庁)は、その期限後申告を前提に、無申告加算税の賦課決定処分をしました。
本人は、「期限内に贈与税申告書を出せなかったこと」について正当な理由があるとして、無申告加算税の取消しを求めて争いました。
国税通則法(一部抜粋加工)
第66条 無申告加算税
次の各号のいずれかに該当する場合には、無申告加算税を課する。ただし、期限内申告書の提出がなかつたことについて正当な理由があると認められる場合は、この限りでない。
無申告加算税が課されない「正当な理由」とは?
無申告加算税は、期限内に申告した方と、期限を過ぎて申告した方の間の不公平を是正し、申告秩序を維持する趣旨の行政上の措置だと説明されています。
そして、国税通則法第66条第1項ただし書の「正当な理由」は、かなり限定的に理解されるべきだ、という枠組みが示されています。
裁決文では、典型例として災害や交通・通信の途絶など、真に納税者の責めに帰することのできない客観的事情が挙げられています。
その上で、趣旨に照らして「賦課することが不当又は酷」になる場合に限って、正当な理由が認められる、という整理です。
ここは、実務でも誤解が生じやすいところです。
「知らなかった」「勘違いしていた」「申告するつもりはあった」という事情は、気持ちとしては理解できても、法令上の「正当な理由」とは別物として扱われやすい、という前提が見えてきます。
かかる無申告加算税の趣旨に照らせば、通則法第66条第1項ただし書にいう正当な理由があると認められる場合とは、例えば、災害、交通・通信の途絶等、法定申告期限内に申告書が提出されなかったことについて真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記の無申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に無申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である。
税務署がすぐに間違いを指摘してくれるとは限らない
本人側は、少なくとも「申告する意思」はあった、という点を強調しています。
所得税等の確定申告を期限内に行い、贈与契約書の写しも添付していたからです。
さらに、指摘を受けた後は速やかに贈与税の申告をした、という事情も主張されています。
一方で裁決は、無申告加算税は「法定申告期限までに申告を行わなかった」という客観的事実があれば原則として課される、という立場を明確にします。
所得税の申告書に資料を添付していたとしても、それをもって贈与税の申告書を提出したことにはならない、と整理されています。
結局のところ、期限内に贈与税申告書が提出されていない事実自体は覆らない、という判断です。
また本人側は、「税務署が検算しているのに是正の連絡をしなかったのは職務怠慢で、誤った指導があったのと同じだ」という趣旨も述べています。
これに対して裁決は、「税務署長が期限内に連絡して是正措置を講じなければならない」とする法令上の根拠はない、と述べています。
そして申告納税制度の下では、どの税目でどのように申告するかは納税者の判断と責任に委ねられている、という考え方を前提にしています。
そのため、税務署が期限までに是正を促さなかったとしても、それだけで「誤った指導があった」とは言えない、としています。
以上から、この事案では「税についての不知又は誤解」によるものにとどまり、真に責めに帰せない客観的事情があるとはいえないとして、正当な理由は否定されました。
想う相続税理士
