相続税専門税理士の富山です。
今回は、連帯保証を肩代わりした後の「求償権」が相続財産になるのかが争われた裁決事例について、お話します。
出典:TAINS(F0-3-610)(一部抜粋加工)
平29-12-15裁決
求償権は相続税の課税対象
相続税は、亡くなった方が持っていた財産を、相続開始時点で洗い出して計算します。
預貯金や不動産だけでなく、「人に請求できる権利」も財産に含まれます。
その代表例が、今回のテーマである「求償権」です。
求償権とは、簡単に言うと「立て替えた分を、あとから相手に請求できる権利」です。
たとえば、家族(Aさん)の借入を連帯保証していて、保証人として支払いをした場合をイメージしてください。
保証人が払った金額のうち、本来は主債務者(Aさん)が負担すべき部分について、保証人は主債務者(Aさん)に返してもらう権利を持ちます。
この「返してもらう権利」が、求償権です。
求償権は、現金のように目に見えません。
しかし、法律上は「債権(=財産的価値のある権利)」として扱われます。
そのため、相続開始時点で求償権が残っていれば、相続財産として相続税の課税対象になり得ます。
本件は、被相続人が連帯保証債務及び連帯債務を履行したことに伴い、主債務者であり、他の連帯債務者でもある者に対して有することになった求償権について、原処分庁が、当該求償権は相続開始日における相続財産であり、当該求償権の価額は課税価格に算入されるべきであるなどとして相続税の更正処分等を行ったのに対し、審査請求人らが、当該求償権は放棄されており、相続開始日においては相続財産に該当しないとして、同処分等の一部の取消しを求めた事案である。
相続の現場では、「もう請求する気がないから、実質ゼロですよね」と考えられがちです。
ところが、相続税は「気持ち」ではなく、「権利が残っているか」で判定されます。
ここが落とし穴になりやすいポイントです。
請求をしなければ求償権は無くなる?
本件で中心になったのは、「求償権が放棄されていたかどうか」です。
結論としては、放棄があったとは認められず、相続開始日に求償権は残っていた、と判断されました。
実務的に重要なのは、裁決が“何を根拠に”放棄を否定したかです。
ポイントは大きく3つあります。
1つ目は、和解条項の内容です。
本件では、和解条項に「相続等で求償権を取得しても請求しない」趣旨の条項がありました。
この条項は、裏を返せば「相続時点でも求償権が存在している」ことを前提にしている、と読めます。
2つ目は、「明示的な放棄」を示す証拠の有無です。
裁決では、本件和解を含め、書面による明示的な意思表示がない点が押さえられています。
相続税の争点になる場面では、「書面があるかどうか」が決定的になる場合があります。
口頭での合意や、家族内の了解だけでは、後から説明が極めて難しくなります。
3つ目は、「長期間請求しなかった=放棄」ではない、という考え方です。
本件では、約4年7か月間、求償権を行使していない事情がありました。
それでも裁決は、「行使しないこと」だけで直ちに放棄とはいえない、と整理しています。
さらに、放棄が本当にあったなら贈与税の問題が出るのに、申告がされていない点も、放棄を否定する方向の事情として触れられています。
ここは、相続税実務でも非常に現実的な論点です。
債権放棄(債務免除)をすると、相手側に贈与税や所得税の問題が生じ得ます。
そのため、税務の世界では「放棄した」と言うなら、その形跡(書面や申告関係)がどこかに残りやすいのです。
つまり、放棄を主張する側は、「放棄の意思」だけでなく「放棄と評価できる客観的事実」を揃える必要があります。
相続対策としても、ここを曖昧にすると、相続発生後に思わぬ「財産の計上もれ扱い」につながりかねません。
想う相続税理士
連帯保証を肩代わりした後の求償権は、放棄したつもりでも、書面や客観的状況が揃わないと「相続財産として残っている」と判断されることがありますので、ご注意を。

