相続税専門税理士の富山です。
今回は、底地を相続後に「専門業者に対して一括売却した価格」を「相続開始時点に時点修正」して相続税評価に使えるのかが争われた裁決事例について、お話します。
出典:TAINS(F0-3-611)(一部抜粋加工)
平30-01-04裁決
相続税申告における「相続開始時の時価」とは?
相続税は、「亡くなった時点(相続開始時点)における財産の金額=時価」を基準に計算します。
この「時価」は、一般的な市場で通常成立する価格、というイメージです。
裁決でも、時価の考え方が次のように整理されています。
相続税法第22条は、相続財産の価額は、特別に定める場合を除き、当該財産の取得の時における時価によるべき旨を規定しているところ、ここにいう時価とは相続開始時における当該財産の客観的な交換価値、すなわち、その財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間において自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいうものと解するのが相当である。
そして実務上は、財産評価基本通達に沿って評価した価額は、原則として「時価だと推認できる」と整理されやすい点が重要です。
つまり、通達評価で申告している場合、そこから外す(より低い時価を主張する)には、通達評価の推認を覆すだけの事情や証拠が必要になりやすい、という構造です。
必ずしも「実際に売却した金額が時価」という訳ではない
本件では、相続で底地(借地権の目的となっている土地)を取得した後、底地の買取業者にまとめて売却しています。
その上で「売却価格は客観的な交換価値を示すのだから、相続開始日に時点修正すれば相続開始時の時価になるはずだ」として、更正の請求(税金を減らす請求)を行った、という流れです。
しかし、裁決はこの主張を採用しませんでした。
理由の核心は、「その売買価格が、一般的な市場で通常成立する価格(=不特定多数の当事者間の自由な取引で成立する価格)を反映していない」と評価された点です。
具体的には、売却先が「底地の買取専門業者」であり、買取専門業者は転売利益を確保する前提で仕入価格を決める、というビジネスモデルに沿って価格決定していたことが指摘されています。
また、売主側も、更地相場や借地権割合・底地割合の相場感を認識しつつ、個別交渉の煩わしさを避けるために一括売却を選び、結果として「相場感に基づく合計額を大きく下回る価格で売却した」という事情が認定されています。
要するに、「短時間で手離れさせる(手間を減らす)取引」と「一般市場での通常の価格形成」は一致しないことがある、という判断です。
そのため、売買価格を時点修正しても、通達評価が時価だという推認を覆す材料にはならない、と整理されました。
「実際に売却した金額が時価」になるには?
この裁決が示す実務上の注意点は、「売れた事実」だけでは足りない場面がある、ということです。
特に、買主が「転売利益を前提に仕入れる専門業者」で、しかも「一括」で売った場合は、価格がディスカウントされやすい構造があります。
その価格を「客観的な交換価値」として相続税評価に結び付けるには、少なくとも次の観点が問題になりやすいです。
「その土地(底地)を買いたい『普通の買い手』が広く存在するのか」という点です。
たとえば、借地権者への個別売却の可能性、仲介を通じた一般市場での売却可能性、複数ルートでの公開的な売却活動の有無などです。
また、価格形成の過程が「通常の市場取引」に近いかどうかも重要です。
複数社の提示を比較しただけで足りるのか、条件(測量・瑕疵・決済時期・境界・道路など)が価格に与えた影響は何か、といった点も整理が必要になりがちです。
さらに、相続税の時価は「相続開始時点」が基準なので、相続後の事情(売る・売らない・いつ売る・どんな条件で売る)をどこまで持ち込めるか、という根本論点も避けて通れません。
想う相続税理士

