相続税専門税理士の富山です。
今回は、米国の遺族年金を受給する権利が相続税の課税対象になるのかが争われた裁決事例について、お話します。
出典:TAINS(F0-3-898)(一部抜粋加工)
令05-12-01裁決
遺族年金は非課税?
本件は、被相続人が亡くなったことをきっかけに、配偶者が米国の遺族年金を受給する権利を得たところ、税務署が「これは相続税法3条1項6号のみなし相続財産に当たる」として更正等を行い、これに対して納税者側が争った事案です。
ここでの争点は大きく2つでした。
- 米国遺族年金を受給する権利は、相続税法3条1項6号の「契約に基づかない定期金に関する権利」として、みなし相続財産に該当するか
- みなし相続財産に当たるとして、「どうやって評価する(いくらと見積もる)」のが相当か(「1年当たりの平均額」「予定利率」を何で置き換えるか)
相続税の世界では、「相続で財産をもらったか(承継したか)」だけでなく、死亡をきっかけに「受け取れる権利」が発生した場合にも、相続税の対象に「みなされる」ことがあります。
本件は、まさにその論点を、海外(米国)の公的年金で正面から扱った点が特徴です。
米国遺族年金はみなし相続財産に該当する?
審判所は、相続税法3条1項6号の趣旨を、死亡により遺族等が「固有の権利」として取得するものであっても、実質的に相続財産と同様の性格を持つなら、公平負担の観点から相続税の対象にする、と整理します。
そして本件では、米国遺族年金は、被相続人の死亡により、一定要件を満たす配偶者が受給できる制度であり、配偶者が原始的に取得した受給権であると整理されました。
このため、相続の効果として「被相続人から承継したもの」ではないものの、相続税法3条1項6号の射程に入る、と判断されます。
加えて重要なのは、「日本の遺族年金が相続税の対象にならないのは、性質上当然だから」という主張は採られず、「非課税規定があるから課税されない」という整理がベースになっている点です。
本件では米国遺族年金について、相続税が課税されないとする非課税規定は設けられていない、という前提に立ちます。
また、納税者側は「遺族年金になったことで増えたのは50%相当分に過ぎないのだから、その増加分だけを課税対象にすべき」という趣旨の主張もしていますが、審判所は、被相続人の退職年金と配偶者の家族年金は終了し、配偶者が遺族年金の受給権「全部」を取得したのだ、として退けています(結果として「全部」が対象)。
想う相続税理士秘書
死亡後:退職年金と家族年金が終了し、配偶者が「遺族年金」を受給(額は退職年金と同額)
「平均額」や「予定利率」の計算はどうする?
では、どう評価すればいいのでしょうか?
相続税法24条は定期金の評価方法を定めていますが、本件のように「契約に基づかない定期金」だと、条文上そのままではハマりません。
そこで審判所は、「契約がない以上、条文に出てくる『平均額』や『予定利率』も当然ない。だからこそ、合理的な金額・利率で置き換えて評価することを法は予定している」という立て付けを示します。
実際の当てはめとしては、次の方向性です。
「予定利率」:契約上の予定利率がない以上、合理的な利率で代替する。ここでは、米国の社会保障年金信託基金の実効金利(令和元年2.8%)を、予定利率に相当するものとして用いるのが相当
この「置き換え」の発想を、裁決文の流れがよく表している箇所を引用します。
しかしながら、上記ロの(イ)のとおり、本件受給権は定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のものであり、「当該契約に基づき給付を受けるべき金額の1年当たりの平均額」は無いのであるから、将来にわたって受け取るべき年金の金額を現在価値に引き直すに当たり、相続税法第24条第1項第3号ハを準用した終身定期金の受給権の価額の評価において、判明している令和元年の1年間に給付を受けるべき金額である本件受給額を用いるのは合理的である。
海外の年金は、受給額が為替・制度改定・物価調整などで動き得ます。
しかし、相続税実務では「相続開始時点での評価」を避けて通れません。
本件は「分からないから評価できない」ではなく、「分かっている情報で合理的に評価する」という発想が、制度上も実務上も採用され得ることを示していると言えます。
想う相続税理士
