相続税専門税理士の富山です。
今回は、同族会社に対する貸付金債権の評価(「回収困難」を理由に元本を減らせるか)について争われた裁決事例について、お話します。
出典:TAINS(F0-3-875)(一部抜粋加工)
令04-07-06裁決
回収できなければ債権としての価値は無い
相続財産の中に、亡くなった方が会社へ貸していたお金(貸付金)があることがあります。
特に、同族会社(家族経営の会社)への貸付金は金額が大きくなりがちで、相続税評価のインパクトも大きいです。
そこで問題になりやすいのが、「会社の業績が悪いから、全部は返ってこないはずだ(財産価値は無いはずだ)」という感覚です。
この裁決の事案でも、被相続人(亡くなった方)が同族会社に対して持っていた貸付金債権等(約5億円)について、請求人(相続人側)が「一部は実質的に回収不能」として、相続税申告上、元本の一部を評価から外して申告しました。
その根拠として持ち出されたのが、財産評価基本通達205(貸付金債権等の元本価額の範囲)です。
通達205は、一定の場合に「回収不能や著しく困難」と見込まれる金額を、元本に算入しない(評価を下げられる)としています。
ただし、通達205は「何でも回収不能と言えば下げられる」というルールではありません。
今回の裁決は、その線引きをかなりはっきり示したものです。
評価通達205の「その他回収不能」の意味は思ったより狭い
通達205には、取引停止処分、破産・再生等の法的整理、債権カットの合意など、外形的に分かりやすい類型が並んでいます。
そして問題になるのが、その後ろに続く「その他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるとき」という部分です。
ここを広く読むと、会社の将来利益や清算価値などを試算して「このくらいしか返ってこない」と言い出せそうです。
実際に請求人は、過去の平均利益や清算価値をもとに回収可能額を算定し、それを超える部分を「実質回収不能」と主張しました。
しかし審判所は、その読み方を採用しませんでした。
また、評価通達205は、その(1)ないし(3)の事由のほか、「その他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるとき」も評価通達204による評価の例外的事由として掲げているが、これが評価通達205の(1)ないし(3)の事由と並列的に定められていることからすると、評価通達205に定める「その他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるとき」とは、その(1)ないし(3)の事由と同程度に、債務者が経済的に破綻していることが客観的に明白であり、そのため、貸付金債権等の回収の見込みがないか、又は著しく困難であると確実に認められるときをいうものと解すべきである。
要するに、「その他回収不能」は便利な逃げ道ではなく、(1)~(3)と同じレベルで、客観的に見て「もうダメだ」と言える状態が必要だ、という整理です。
さらに審判所は、会社の営業状況や将来性を前提に回収可能額を算定する方法は、客観的一義的に決めにくく、納税者の恣意も入り得るため、全国一律の評価という通達の趣旨(公平性)に反する、と述べています。
この部分は、実務上かなり重要です。
「回収できそうにない」という肌感覚があっても、評価を下げるには「外形的に見て破綻が明白」というハードルを越える必要があります。
会社が債務超過でも事業継続なら「元本評価」になりやすい
では、この事案の会社はどうだったのでしょうか。
裁決文では、相続開始日前後を通じて売上を計上し、店舗で花等の販売事業を継続していたことが認定されています。
また、金融機関からの借入金についても、相続開始日まで返済を滞りなく行っていた、とされています。
つまり、会社が外形上きちんと事業を続け、支払停止なども見当たらない状況でした。
このような事情から、審判所は「(1)~(3)と同程度に経済的破綻が客観的に明白」とはいえないとして、通達205の「その他回収不能」に当たらないと判断しました。
結果として、貸付金債権等は通達204の原則に戻り、元本で評価すべきとされました。
実務で怖いのは、同族会社への貸付金を「実質回収不能」と見て評価を下げたつもりでも、税務調査等で否認されると、貸付金が「元本でドン」と戻り、追徴のインパクトが非常に大きくなることです。
同族会社への貸付金が相続財産に含まれる場合は、会社の状況を丁寧に確認しつつ、「通達205の要件に本当に届くのか」を冷静に見極める必要があります。
想う相続税理士
今回の裁決のように、評価通達205の「その他回収不能」は、倒産等に準ずる客観的事情が求められる方向で整理されています。
相続財産に貸付金があるときは、金額が大きいほど判断も難しくなりますので、早い段階で資料を揃え、専門家と一緒に評価方針を固めていくことをおススメします。

