【毎日更新】相続税専門税理士ブログ

生前に亡くなった方の口座から勝手にお金を引き出すと相続税が課税されるのはなぜ?

続税専門税理士の富山です。

今回は、被相続人(亡くなった方)名義の証券口座から生前に引き出された多額の金員について、「返還請求権」が相続財産になるのか、さらに申告で隠した場合に重加算税が認められるのかが争われた裁決事例について、お話します。

出典:TAINS(F0-3-787)(一部抜粋加工)
令03-04-22裁決


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生前にお金を引き出せば相続税は課税されない?

本件は、被相続人の生前、被相続人名義の証券口座から巨額の現金出金が繰り返されていた、という事案です。

税務署は「その出金は二男(請求人)が行った」と認定し、出金した金員の「残額相当」について、被相続人が二男に対して持っていた「返還を求める権利(請求権)」が相続財産になるとして、更正処分を行いました。

これに対して請求人は、「自分は出金していない」「だから請求権も存在しない」と争いました。

結論として審判所は、出金者は請求人だと認定し、少なくとも残額相当について被相続人には請求人への請求権があった以上、それは相続財産に含まれる、と判断しました。

そして税務署は、施設利用料等・医療費・固定資産税など一定の支出を控除した後の残額相当の請求権を課税財産に入れています。

この「現金がどこにあるか分からない」状態でも、相続税では「権利(請求権)」として課税関係が立つ、という点が実務上とても重要です。

返還請求権課税のロジック。「現金」ではなく「権利」で課税される

相続税の課税財産は、土地や預金のような「モノ」だけではありません。

相続開始時点で被相続人が持っていた「権利」も相続財産になります。

典型例が、貸付金、未収入金、損害賠償請求権などです。

本件で争点になったのは、証券口座から引き出された金員について、被相続人側に「返せ」と言える権利が残っていたのか、そしてそれを相続財産に入れてよいのか、という点です。

審判所は、細かい法律構成(不当利得返還請求権かどうか)を詰め切らなくても、少なくとも残額相当について「請求権がある」といえるなら課税財産に入る、という整理を示しています。

次の部分が、この裁決のキモです。

請求人は、少なくとも本件残額に相当する金員(1,387,351,201円)を被相続人に返還する義務を負っているといえる。そうすると、不当利得返還請求権の有無はともかく、被相続人は請求人に対して、少なくとも、本件残額相当額の請求権を有していたということができる。

したがって、本件残額相当額の請求権が本件相続税の課税財産に含まれることになり、不当利得返還請求権の有無について判断するまでもなく、この点についての判断としてはこれをもって足りるというべきである。

つまり、「現金そのものが見つからない」ことと、「課税できない」ことはイコールではありません。

相続開始時点で、被相続人側に「返還を求められる関係」が残っているなら、相続税ではその権利を財産として把握します。

ご家族の中で口座管理をしている方がいる場合、出金の経緯や使途が整理できていないと、このように「請求権課税」として大きな問題に発展することがあります。

重加算税に刺さる行動類型(「税理士に言わない」「虚偽説明」が危険)

本件は、課税財産の判断だけでなく、重加算税(通則法68条)の判断がセットで争われています。

審判所は、重加算税について「架空名義の利用」「証拠書類の隠匿」のような分かりやすい工作まで必須ではなく、当初から過少申告を意図し、その意図を外部からうかがえる特段の行動があった上で、過少申告をしたような場合にも要件を満たす、という考え方を示しました。

ここから、実務で使える「論点別チェックリスト」に落とすと、次のようになります。

返還請求権課税(請求権が立つか)のチェック
出金原資は被相続人の財産か(株売却代金、預金など)

贈与・対価・委任等の「正当な原因」を説明できるか

出金者、出金時期、出金場所、カード管理者などを客観資料で追えるか

使途(施設費、医療費、生活費等)として合理的に説明できる部分と、説明できない残額を分けられるか

残額がある場合、相続開始時点で被相続人側に返還請求できる関係が残っていないか

重加算税(隠蔽・仮装の評価)のチェック
申告時に、税理士へ重要事実(多額の出金、使途不明金、保管場所等)を伝えているか

税理士の確認に対し、曖昧回答や虚偽回答をしていないか

調査で説明を避ける、資料を出さない、連絡に応じない等の不自然な対応がないか

金員を「容易に発見できない場所」に移していないか(保管先不明、管理不能)

当初から「少なく申告する意図」が推認される行動(計画性のある出金、反抗的発言等)がないか

相続税は「申告内容」だけでなく、「申告に至るプロセス」も見られます。

特に、税理士に知らせないまま申告が進むと、後で発覚した際に「単なるミス」では済みにくくなります。

相続手続きが始まった段階で、口座の動き、カード管理、使途、保管状況を早めに整理し、説明できる形にしておくことが重要です。

想う相続税理士

相続税申告では「現金が見当たらないから終わり」ではありません。

相続開始時点で「返還を求められる権利」が立つと、相続財産として課税対象になり得ます。

さらに、税理士への不告知や虚偽説明が重なると、重加算税まで一気に近づきます。

不安がある場合は、早い段階で資料をそろえ、専門家と一緒に整理してから申告方針を固めるのが安全です。