相続税専門税理士の富山です。
今回は、親族等名義の預貯金や株式の帰属、家事使用人に対する未払給与債務の有無、さらに重加算税まで争われた裁決事例について、お話します。
出典:TAINS(F0-3-791)(一部抜粋加工)
令03-06-01裁決
名義が家族でも亡くなった方の財産と判断されることがある
相続税の実務では、預金や株式の名義が誰になっているかだけで判断してはいけません。
この裁決でも、長女名義、他の親族名義、さらに家事使用人名義の預貯金や株式などが、本当にその名義人の財産なのかが争われました。
審判所は、名義だけでなく、原資を誰が出したのか、誰が管理していたのか、誰の判断で運用されていたのかを総合して判断しています。
その結果、不動産賃貸業の事業収入を生み出していたのは被相続人(亡くなった方)であり、その財産の管理運用も被相続人の意思の下で行われていたとして、これらの財産は相続財産に当たるとされました。
本文でも、次のように述べられています。
相続財産である預貯金等の帰属については、一般的にはその名義人に帰属するのが通常であるが、預貯金等については別の名義への預け替えが容易にできることから、単に名義人が誰かという形式的事実のみにより判断するのではなく、その原資となった金員の出捐者、その管理、運用の状況等、諸般の事情を総合的に勘案してその帰属を判断するのが相当であると解される。
相続人の側は、長女が昔から事業を承継していたとか、株式は贈与されていたなどと主張しました。
しかし、賃貸借契約書、賃料の振込口座、領収証、所得税申告書、日記帳の記載などから、事業主は被相続人だと認定されています。
つまり、相続税では「名義」よりも「実質」が優先される、という基本が改めて確認されたわけです。
未払給与の債務控除は実在が証明できなければ認められない
この事案では、長年住み込みで家事等に従事していた使用人に対する未払給与があるとして、相続債務に当たるかどうかも争われました。
相続人側としては、もし未払給与債務が認められれば、その分だけ相続税の課税価格を下げることができます。
しかし、審判所はこれを認めませんでした。
理由は、給与を支払う合意の裏付けが乏しく、実際には衣食住や必要な都度の金銭提供によって生活が成り立っており、別途「未払給与」が積み上がっていたとは認められなかったからです。
本文には、次の記載があります。
本件で本件被相続人と使用人■■との間で金銭により給与を支払うべきことの定めの存在を裏付ける雇用契約書等の物証は存在しない。
また、審判所は、長年にわたり給与の不払いが続いていたのに請求もなく労務提供が続いていたという主張自体が不自然だとも見ています。
相続税実務では、「債務らしい話」があるだけでは足りません。
本当に相続開始時点で存在していた債務なのか、契約書、帳簿、支払経緯、請求の事実などで丁寧に裏付ける必要があります。
税理士に伝えなかった申告もれは重加算税の問題に発展し得る
この裁決で特に重いのは、単なる財産認定だけで終わらず、重加算税まで認められている点です。
長女は、被相続人と同居し、財産管理にも関与していました。
その上で、税理士側から名義財産の資料提出を求められていたにもかかわらず、関係資料を出さず、相続財産に含めないまま申告が行われました。
審判所は、このような対応を、当初から過少申告を意図した行為だと評価しています。
本文には、次のような記載があります。
請求人■■は、本件各資産が相続財産に含まれることを知りながら、その名義上本件被相続人に帰属しないかのような外形を備えていたことから、本件各資産のあることを■■税理士に対して秘匿し、本件各資産に係る資料も提供することなく、■■税理士に相続財産の課税標準額として過少な金額を記載した申告書を作成させて、これを提出したと認められる。
相続人の中には、「税理士にお願いしたから大丈夫」と考える方もいます。
しかし、税理士に正しい資料が渡されなければ、正しい申告はできません。
しかも、隠していた事情があると見られると、加算税の中でも特に重い重加算税の対象になり得ます。
名義預金や名義株が少しでも疑われる場合には、最初から包み隠さず専門家に見せることが、結果的には最も安全です。
想う相続税理士
