相続税専門税理士の富山です。
今回は、「預け金債権」の有無・過少申告加算税の「正当な理由」の有無などが争われた判決事例について、お話します。
出典:TAINS(Z262-12117)(一部抜粋加工)
平成24年12月14日判決
相続税の申告は自分で財産を調査しなければならない
本件は、「相続財産に入れるべき財産が申告からもれていたのか?」と「もれたことに『正当な理由』があるのか?」が争点となった事案です。
被相続人(亡くなった方)の死亡後に、①第三者(親族)に預けたとされる1億円と500万円の「預け金債権」、②自宅の金庫内で確認された現金(少なくとも2,800万円)、③衣装ケース内で発見された現金(1億9,500万円)などが問題になりました。
税務署は、これらを相続財産に含めるべきなのに申告されていないとして更正処分等を行い、さらに過少申告加算税も賦課しました。
これに対して納税者側は、「預け金債権は相続財産ではない」「現金を課税価格に入れなかったのは真にやむを得ない」などとして争いました。
相続税は申告納税方式なので、原則として相続人の方などは、自ら相続財産を「調査」して「申告」する前提となっています(ただ相続税を納付すればいい、という訳ではありません)。
この前提があるため、「知らなかった」「見つけられなかった」が通りにくい場面が出てきます。
亡くなった方の財産(お金)だとどう判断する?
裁判所は、預け金債権(1億円と500万円)について、口座の入出金状況や収入状況などの客観事情から、被相続人の財産を原資とする多額の金員が親族側に渡り、その後に口座へ入金されたと推認できるとしました。
特に、相続開始後の一定期間に、口座への入金総額が出金総額を大きく上回っていた一方で、名義人側の収入は年700万円以下(配偶者は年50万円程度以下)だった点が重視されています。
また、被相続人の自宅から多額の現金が見つかった事情なども踏まえ、「被相続人以外に、その親族へ多額の現金を渡し得る人物がいたことを具体的にうかがわせる証拠がない」として、原資は被相続人の形成財産と推認しています。
一方で、親族側が述べた「預かった理由」については、信用し難いとしつつも、「預かったという事実」自体は客観状況と整合するとして、その限度で信用できると整理しています。
判決文でも、結論部分は次のように述べています。
そうすると、これらの事情を総合して考慮すれば、本件丙預け金債権Aは現実に存在し、それが亡乙の相続財産に属する財産であると認めるのが相当である。
現金についても、衣装ケース内現金や金庫内現金の存在が確認された経緯を前提に、相続財産として扱う方向で判断が組み立てられています。
本件は最終的に、納税者側の請求は棄却され、上告も棄却・不受理とされています。
過少申告加算税がかからない「正当な理由」とは?
本件のもう1つのポイントは、過少申告加算税の「正当な理由」です。
裁判所は、国税通則法第65条の「正当な理由」について、納税者の責めに帰することのできない客観的事情があり、加算税を課すのが不当または酷になる場合だと整理しています。
そして本件では、衣装ケース内現金について、納税者は発見当時に「遺言により自分に帰属する」と認識していたこと等から、課税価格に算入しなかった点に正当な理由はないと判断しています。
金庫内現金についても、相続開始直後の捜査で警察官が金庫内の現金を確認していたのに、納税者が捜査結果の確認等をしていない点などから、必要な調査を尽くしたとはいえないと判断しています。
預け金債権についても、納税者側が被相続人から2,000万円を預かっていたことや、「被相続人が親族に現金を渡した」旨を聞いていたこと等から、預け金債権の存在自体は十分認識し得たのに、確認・調査が尽くされていないとされました。
つまりこの判決は、「発見した」「聞いていた」「確認できた可能性がある」という事情が積み重なると、「正当な理由」としては弱くなるというメッセージになっています。
相続税申告では、現金・預け金・名義の問題は、後から争いになりやすい類型です。
特に遺言執行者の立場にある場合、財産目録の作成や調査の期待値が上がり、結果として「調査が不十分」と評価されやすくなります。
想う相続税理士
現金の保管、親族への預け金、口座の不自然な動きが絡むと、相続財産の認定も加算税の判断も一気に難しくなりますので、ご注意を。
