【毎日更新】相続税専門税理士ブログ

非上場株式の評価でまだ確定していないデリバティブ取引のマイナスは反映できる?

相続税専門税理士の富山です。

今回は、取引相場のない株式の評価で、期限未到来のデリバティブ取引を資産や負債に入れられるかが争点となった公表裁決について、お話します。

出典:TAINS(J88-4-16)(一部抜粋加工)
平24-07-05公表裁決


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将来の損失見込みを入れて株価を下げられるのか

ホームズ、非上場株の評価では、会社の財産や借入金を見て株価を計算することがあるよね。
それなら、将来に損が出そうな契約がある場合にも、その分だけ株価を下げてよいようにも思えるのだけれど、どうなんだい。
ワトスン君、そこが今回の重要なポイントなんだ。
この件では、会社が銀行との間でスワップ取引や通貨オプション取引をしていて、そのうち、まだ支払日や権利行使日が来ていない取引を、株価計算のうえで負債や資産に入れられるかが争われたんだよ。

なるほど。
まだ決済の時期が来ていないけれど、将来の相場しだいでは損になるかもしれない。
その見込みを先に織り込んで、株価を低くしたいという発想だね。
そのとおりだよ。
けれども、税務上の純資産価額の計算では、何でもかんでも将来予想を入れてよいわけではない。
課税時期において、会社に現実に帰属しているといえる具体的な価値なのか、あるいは、会社がその時点で負担すべき確実な債務なのかが問われるんだ。

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、平成21年分の贈与税について、贈与により取得した取引相場のない株式の評価に当たり、財産評価基本通達(昭和39年4月25日直資56ほか国税庁長官通達をいい、以下「評価通達」という。)185《純資産価額》(以下、同項に定める評価方法を「純資産価額方式」といい、純資産価額方式による価額を「純資産価額」という。)による計算上、デリバティブ取引に係る未決済の負債等を計上していなかったとして更正の請求をしたところ、原処分庁が、当該株式の評価において、当該デリバティブ取引に係る未決済の負債等は、純資産価額の計算上、計上することはできないが、他に評価誤りがあるとして当該更正の請求の一部を認める更正処分を行ったので、これに対して、請求人が、更正の請求はその全部が認められるべきだとして、当該処分の全部の取消しを求めた事案である。

つまり、納税者側は、まだ先の取引でも、もう契約自体は結ばれているのだから、評価の中に入れたいと考えたわけだね。
そうだよ。
ただ、契約があることと、その時点で税務上の資産や負債として認められることとは、同じではない。
そこを分けて考える必要があるんだ。

税務で重視されたのは「まだ予測にすぎない」という点

ホームズ、でも契約条件が決まっているなら、ある程度は金額も見積もれそうじゃないか。
それでもダメなのかい。
そこが難しいところなんだ。
今回の考え方では、金利支払日や権利行使期日がまだ来ていない段階では、その取引の価値は、あくまでその時点の為替レートなどを前提にした理論値や予測値にとどまる、と見られたんだよ。

つまり、現に確定した損でも利益でもなく、机上で計算した見込みに近い、ということだね。
その理解でよいよ。
税務では、評価時点において具体的な経済的価値として把握できるか、または確実な債務といえるかが大切なんだ。
将来の相場変動によって有利にも不利にも動き得るものについては、まだそこまで熟していない、と判断されたわけだね。

すると、会社が「たぶん損をするだろう」と思っていても、それだけでは株価計算に反映できないことがあるのか。
そのとおりだよ。
特に純資産価額方式は、会社の財産状態を基礎にして株価を出す考え方だから、評価時点でどこまで現実化しているかがとても重要なんだ。
「将来そうなる可能性が高い」というだけでは足りず、「今、そこにある価値や負担か」が問われるんだよ。

相続や贈与の場面では、少しでも株価を下げられないかと考えがちだけれど、先の見込みをそのまま使えるわけではないんだね。
まさにそこなんだ。
会計上の感覚や経済的な実感と、相続税・贈与税の評価実務とは、必ずしも一致しない。
だからこそ、評価通達上どこまで認められるのかを、丁寧に見極めなければならないんだ。

非上場株の評価では「将来の話」と「今の話」を分けて考える

ホームズ、この考え方は、同族会社の株を相続したり贈与を受けたりする場面でも、かなり大事そうだね。
そのとおりだよ。
非上場株の評価では、会社が抱えている契約、偶発債務、将来の損失見込みなどを、どこまで評価に織り込めるかが問題になることがある。
しかし、税務で認められるのは、評価時点で具体性があり、現実の財産・負債として把握できるものが中心なんだ。

では、会社に複雑な金融取引がある場合ほど、専門家のチェックなしに評価を進めるのは危ないね。
まったくそのとおりだよ。
見た目には損失が出そうでも、税務上はまだ負債といえないことがある。
また、別の論点で評価の見直しが必要になることもある。
だから、会社の決算書だけを眺めて単純に株価を計算するのではなく、取引の中身と税務上の位置付けを確認することが大切なんだ。

よく分かったよ、ホームズ。
非上場株の評価では、「この先どうなりそうか」だけを見るのでなく、「いまの時点で何が確定しているか」を見なければいけないんだね。
その結論でよいよ、ワトスン君。
相続や贈与で非上場株が関係するときは、節税の発想だけで急がず、評価の土台となる事実が税務上どこまで認められるのかを確かめることが、結局はいちばん重要なんだ。

想う相続税理士

非上場株の評価では、将来の損失見込みがあるからといって、すぐに純資産価額の計算に反映できるとは限りません。

特に、デリバティブ取引のように、評価時点ではまだ具体的な価値や確実な債務といえるかが微妙なものは、慎重な検討が必要です。

相続や贈与で自社株が関係する場合には、決算書の数字だけで判断せず、取引内容まで確認したうえで評価を進めることをおすすめします。