相続税専門税理士の富山です。
今回は、相続税の「債務控除(親族間の貸付金)」について争われた裁決事例について、お話します。
出典:TAINS(F0-3-792)(一部抜粋加工)
令03-06-01裁決
「親に貸した500万円」はなぜ否定されたのか?
相続税の計算では、被相続人(亡くなった方)の債務が「相続開始のときに現に存在」する場合、一定の範囲で課税価格から控除できます(いわゆる「債務控除」)。
相続税の現場でよくあるのが、次のような相談です。
「昔、親にお金を渡した。返ってきていない。だから相続税で債務控除できるはずだ」
しかし、親族間のお金のやりとりは、外形(通帳・契約書・返済状況・督促の有無)が弱いと、税務上は「貸付」ではなく「贈与」「生活費の援助」「単なる資金移動」などに見られやすい分野です。
本件では、請求人が「自宅購入資金の贈与を受けるため、親から資力確認として500万円の振込みを求められた。振り込んだが返してもらっていないので貸付金だ」と主張しました。
債務が成立するために債権者として必要な行動とは?
これに対し裁決は、貸付としての信用性を丁寧に崩しています。
ポイントは大きく3つです。
- そもそもの説明が不自然
- 重要な点(振込みの有無・振込用紙の扱い)に関する申述及び答述が変遷している
- 返済請求や債権保全を長年していないのは、債権者として不自然
このうち裁決の核心部分(本文)を一部引用します。
請求人の申述及び答述によれば、本件被相続人が請求人に本件振込みを求めた理由は、本件被相続人が、自宅購入資金を贈与するに当たり、請求人に自宅購入のための資力があるかどうかを確認するためであるところ、贈与者である親が、子に対し自宅購入資金を贈与等するに当たり、当該子の自宅購入に係る資力の有無を確認するために、当該子に一定額の金銭の振込みを求めるというのは不自然であり、上記の請求人の申述及び答述内容自体が不合理なものであるといえる。
また、証拠の出し方・説明の一貫性という意味では、次の指摘も痛いところです。
このように、請求人の申述及び答述は、本件振込みの有無や本件振込みに係る振込依頼書の存否といった、本件被相続人に対する貸付金の成立の有無の判断に当たっての重要な点について変遷しており、その変遷について合理的理由を見いだすことはできない。
そして決定打になりやすいのが「返済請求も保全もしていない」という行動面です。
そして、請求人が本件被相続人に対して貸付金の返済を求めた事実は、請求人の申述及び答述や当審判所に提出された証拠資料によってもうかがわれず、請求人が本件振込みをして本件被相続人に貸し付けたという平成6年から本件被相続人が死亡した平成29年までの長年にわたって、本件被相続人に返済を求めず、何らの債権保全措置を執らないというのは、債権者の行動として不自然というほかない。
こうした事情から「貸付の事実は認められない」→「債務控除すべき債務は存在しない」と結論づけられました。
返済がスタートしているか?
つまり、相続税で債務控除を主張するなら、単に「返ってきていない」では足りません。
- 当時の契約(金銭消費貸借契約書や返済条件のメモ)
- 資金移動の証拠(振込記録、相手口座への入金、目的の整合)
- 返済の実績(分割でもよい)、遅れた場合の督促の痕跡
- 担保や連帯保証など「債権者らしい行動」
このあたりが、後からの説明ではなく、当時から積み上がっているかが重要になります。
想う相続税理士

