相続税専門税理士の富山です。
今回は、名義株だと主張した株式の「本当の持ち主」と、著しく低い価額で株を譲り受けたときの贈与税の扱いについて、相続税法第7条の「みなし贈与」が問題になった裁決事例について、お話します。
出典:TAINS(F0-3-224)(一部抜粋加工)
平16-01-29裁決
名義株だと主張したが認められなかったケース
この裁決事例では、日本に居住する方(審査請求人)が、海外法人の株式を取得したところから話が始まります。
その方は、「自分は実際の持ち主ではなく、あくまで名義を貸しているだけの名義株だ」と主張しました。
一方で、税務署側は「いいえ、あなたが実質的な株主であり、その取得の仕方は贈与税の対象になります」と判断しました。
争いになったのは、「名義株なのか?本当の所有者なのか?」という点と、「その取得価額が著しく低い価額だったのかどうか?」です。
裁決書では、まず「名義株とは何か」が前提として示されています。
他人の名義を借りて株式を引き受け、実際のお金は別の人が出しているケースが、一般的に名義株とされています。
ところが本件では、売買契約書に売主・買主として当人の署名押印があったこと、株式の代金を借入契約に基づいて自分名義で調達していること、株主名簿に自分が実株主として記載されていることなど、実際の行動・書類に「自分が本当の持ち主」であることが示されていました。
さらに、受け取った配当金を自分の所得として申告し、財産債務明細書にも自分の財産として株式を記載していたことも重視されています。
この点について、裁決では次のように述べられています。
本件株式の実質的な所有者が■■■■■■■■■■であるとは認められない。
著しく低い価額で株を譲り受けたときのみなし贈与
次に問題になったのは、「その株式をいくらで譲り受けたのか」という点です。
この事例では、株式の売買価額と、相続税法上の評価額(時価)との間に大きな差があると判断されました。
相続税法第7条には、「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合には、その差額部分については贈与を受けたものとみなす」との規定があります。
つまり、極端に安い値段で財産を譲り受けると、「差額=タダでもらった分」として贈与税の対象になる、という考え方です。
本件では、取引相場のない株式の評価について、財産評価基本通達に従って、会社の規模区分や純資産価額方式などを用いて評価が行われています。
その結果、売買契約書上の譲受価額と、評価通達に基づく時価との間にかなりの差額があると認定されました。
この点について、裁決の要旨では次のように整理されています。
請求人は、本件売買取引において110,000,000円で譲り受けているところ、本件株式の評価額は■■■■■■(■■■■■■×9株)であることから、これらの金額には■■■■■■の差額があるので、上記ハの(ロ)で述べたとおり、本件株式に係る売買は、相続税法第7条に規定する「著しく低い価額で財産の譲渡を受けた場合」に該当すると解するのが相当である
裁決では、評価通達に基づいて算定した株価を「時価」として用いることには合理性があるとし、その上で「著しく低い価額」に該当すると判断しています。
その結果、この差額部分については、譲渡人から譲受人への「みなし贈与」とされ、贈与税の課税対象となりました。
なお、申告がされていなかったため、無申告加算税についても争点となりましたが、正当な理由は認められず、一部金額の見直しはあるものの、課税自体は維持されています。
想う相続税理士
