相続税専門税理士の富山です。
今回は、e-Taxで提出した相続税申告について争われた裁決事例について、お話します。
出典:TAINS(F0-3-899)(一部抜粋加工)
令05-06-27裁決
e-Taxで申告したのに「期限内申告」と認められなかった事案の概要
この裁決では、お母様が亡くなった際の相続税の申告について争われました。
相続人は3人で、そのうち一部の相続人が税理士に依頼し、e-Taxで相続税の申告書を送信していました。
ところが、問題になった相続人(審査請求人)については、税務署から「法定申告期限までに相続税の申告書が提出されていない」と判断され、無申告加算税が課税されました。
これに対して相続人は、「自分の分も含めて税理士がe-Taxで期限内に送っているのだから、期限内申告のはずだ」と主張し、無申告加算税の取消しを求めて審査請求をしました。
裁決書では、まず国税通則法第66条の無申告加算税の規定や、情報通信技術活用法、国税オンライン化省令といったe-Taxの法的な根拠が整理されています。
その上で、「e-Taxで送信されたからといって、自動的に申告として認められるわけではない」という点が、詳しく検討されています。
一般的な感覚としては、「税理士がe-Taxでまとめて送ってくれて、税金も納めていれば安心」と思われるかもしれません。
しかし、この裁決では、形式面の要件を満たしていなかったために、申告として扱われなかった、という非常にシビアな結論になっています。
相続人側からすると、「申告したつもりなのに、実は無申告と同じ扱いだった」という、かなりショッキングな内容と言えるでしょう。
裁決が示したe-Tax申告の「形式要件」とは?
この裁決で特にポイントとなったのが、「e-Taxによる申告が有効になるための条件」です。
裁決書では、次のように述べられています。
情報通信技術活用法第6条第1項及び同条第2項並びに国税オンライン化省令第5条を踏まえれば、e-Taxにより、相続税の申告書が提出されたとみなされるためには、個人番号カードを用いて電子署名を行い当該電子署名に係る電子証明書と併せて送信するか、利用者識別番号及び暗証符号を入力して送信する必要がある。
つまり、
「マイナンバーカードによる電子署名」
または
「利用者識別番号と暗証番号の入力」
のどちらかがきちんと行われていなければ、e-Taxでデータが送られていても、法令上の「申告書の提出」とは認められない、という整理です。
本件では、他の相続人については個人番号や利用者識別番号の入力がありましたが、問題となった相続人については、個人番号も利用者識別番号も入力されていませんでした。
さらに、その相続人についての税務代理権限証書も、e-Taxで送信された申告書に添付されていませんでした。
その結果、審判所は
「この相続人の相続税申告書は、法定申告期限内にe-Taxで提出されたものとは認められない」
と判断しました。
その後、この相続人は、e-Taxで送信された申告書の写しに自分の個人番号を記載し、郵送で提出していますが、これは法定申告期限後の提出でした。
したがって、裁決は、「この相続人は期限後申告をしたに過ぎず、期限内申告はなかった」とし、無申告加算税の賦課決定処分は適法である、と結論付けています。
相続税をe-Taxで申告する場合の実務上の注意点
この裁決事例から、相続税をe-Taxで申告する場合の注意点を、相続手続きを控えた方向けに整理してみます。
まず、e-Taxで申告を行う場合、単に「データが送られて税務署が受信している」だけでは足りず、定められた形式要件を満たしていることが重要です。
具体的には、申告する一人一人の相続人ごとに、「マイナンバーカードによる電子署名」か、「その相続人本人の利用者識別番号と暗証番号」のいずれかによって、その人の申告であることがきちんと紐付いている必要があります。
今回の裁決では、その紐付けができていなかった相続人については、「期限内に申告書が提出されたとは言えない」と判断されています。
「他の兄弟が税理士さんにお願いしてくれているから、自分は何もしなくて大丈夫」という感覚でいると、知らないうちに自分だけが形式要件を満たさず手続きが進んでしまうリスクがあります。
さらに、この裁決では、税務署側の対応に対する不満や、「理由を長期間隠していたのではないか」といった主張もなされましたが、それだけでは無申告加算税の処分が取り消されることはありませんでした。
つまり、手続の経緯に多少疑問があったとしても、「期限内に有効な申告がされていなかった」という事実があれば、無申告加算税が否定されるわけではない、というメッセージも読み取れます。
想う相続税理士
