【毎日更新】相続税専門税理士ブログ

相続税の連帯納付はどこまで負担する?未分割財産と「受けた利益」の考え方

相続税専門税理士の富山です。

今回は、相続税の連帯納付義務と、未分割財産がその支払額計算の際の「受けた利益」に含まれるのかが争われた判決事例について、お話します。

出典:TAINS(Z262-11979)(一部抜粋加工)
平成24年6月27日判決


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相続税の「連帯納付」とは?

相続税は、本来は各相続人が「自分の相続税」を納める税金です。

ところが、相続税には「連帯納付」という制度があり、一定の場合に、他の相続人の相続税まで負担し得る仕組みがあります。

根拠は相続税法第34条で、簡単に言えば「同じ相続で財産を受けた人は、相続税の徴収を確保するため、一定の範囲で共同して相続税の納付の責任を負う」という発想です。

ただし、無制限に負担させる制度ではありません。

条文上、連帯納付で負担する上限は「相続又は遺贈により受けた利益の価額に相当する金額」とされています。

この「上限がどこまでか」が争点の1つとなりました。

特に、遺産分割がまとまらず、預金や債権などが「未分割」のまま残っている場合に、「処分できないのに、利益を受けた扱いにされるのか?」という疑問が出てきます。

相続人間の協力がないと相続税の申告納付は大変

本件は、共同相続人の一人が相続税の申告をした後、税務署から更正処分等を受け、その取消し等を求めた事案です。

あわせて、他の相続人の滞納相続税について、連帯納付として支払った金員が「自分の上限を超えている」として、超過分の還付等も求めました。

争点の一つは、相続税法第34条第1項の連帯納付の仕組みが憲法に反するか(平等原則や財産権の侵害)という点でした。

また、仮に合憲だとしても、「受けた利益の価額」の判断で、未分割財産が含まれるのか、そして支払額が上限を超えるのかが問題になりました。

東京高等裁判所は、控訴を棄却し、控訴人の主張を認めませんでした。

判決文では、違憲をいう主張について、実質的には評価方法や解釈適用の問題だとして採用できない旨を述べた上で、念のためとして制度の合理性にも言及しています。

さらに、未分割財産をめぐる「処分できないのに負担だけ負うのはおかしい」という趣旨の主張についても、相続人全員の協力や家事手続等により処分・実現の余地があることを挙げ、前提を欠くと整理しています。

念のため付言すると、相続税法34条1項は、憲法14条1項、29条1項、2項に違反するものではない。すなわち、相続税法34条1項の連帯納付の義務は、相続税の徴収確保を立法目的として定められたもので、そのような立法目的は正当なものである。

相続財産に属する未分割の財産についても、相続人全員が協力してこれを処分することや、遺産分割協議を経て、各相続人がその取得した財産を処分することができるほか、これらが困難な場合にも、家事調停や家事審判によって遺産分割を実現することや、各相続人がその相続分を譲渡することもできるのであるから、当該財産を処分する余地がないことを前提とする控訴人の主張は、その前提を欠いている。

相続手続きが始まる方が押さえるべき実務上の注意点

この判決事例から、「先に知っておくと損を避けやすい」ポイントを整理します。

第1に、遺産分割が長引くほど、相続税の資金繰り・責任関係が複雑化しやすいということです。

未分割の預金や債権があると、「換金できない」「相手が協力しない」といった事情が起こり得ますが、相続税の申告納付期限(原則10ヶ月)は待ってくれません。

第2に、「他の相続人が払わないリスク」がゼロではない以上、相続税の納付は「自分だけの問題」ではなくなる場面がある、ということです。

連帯納付は常に発動する訳ではありませんが、制度として存在する以上、相続人間の連携と情報共有が重要になります。

第3に、「上限があるから大丈夫」と早合点しないことです。

上限は確かにありますが、その上限をどう評価するか、未分割財産をどう扱うかといった論点は、事案の事情や主張立証の組み立てで見え方が変わります。

第4に、相続開始直後の初動が極めて重要です。

相続財産の全体像(預貯金・有価証券・不動産・貸付金・未収金など)を早期に把握し、遺産分割の見通しと納税資金の手当てを並行して検討する必要があります。

また、相続放棄を含む選択肢の検討には期限があるため、「揉めそう」「財産状況が不透明」と感じた時点で、できるだけ早く専門家に相談することをお勧めします。

相続税は、金額が大きいほど、そして相続人が多いほど、税額そのものだけでなく「誰が・いつ・どこまで負担するのか」がトラブル化しやすい分野です。

この判決事例は、未分割の財産がある相続でも、連帯納付の議論が現実に問題となり得ることを示唆しています。

想う相続税理士

相続税の問題は、「税額」だけでなく「遺産分割の進み方」「相続人間の協力状況」で、リスクの大きさが変わります。

遺産分けがまとまらなそうな相続ほど、早めの全体把握と、分割・納税・責任関係を一体で設計することが、将来の負担を軽くする近道です。