相続税専門税理士の富山です。
今回は、路線価等による評価額が「時価」を上回る場合の国税庁の考え方について、お話します。
出典:TAINS(事務連絡H040400)(一部抜粋加工)
平成4年4月○○日 国税庁
平成4年の事務連絡とは?バブル崩壊と路線価のズレ
平成4年、国税庁から「路線価等に基づく評価額が『時価』を上回った場合の対応等について」という事務連絡が出されています。
バブル崩壊後、地価公示では大きく地価が下落している地域がある一方で、相続税評価の基準である路線価は年初に定められており、年の途中の動きまでは反映しきれないという事情がありました。
その結果、「路線価で評価すると高過ぎるのではないか」「実際の売買価格と比べて違和感がある」というケースが出てきたため、現場の職員に向けて、どのように対応すべきかを示したのが今回ご紹介する事務連絡です。
この事務連絡では、まず路線価の位置づけが改めて示されています。
土地の評価については、納税者の便宜及び課税の公平の観点から、なるべく簡易かつ的確に土地の評価額を算定することができるよう、その基準となる路線価等の土地評価基準を予め定めているところであり、実務的にも、路線価等に基づいて申告等が行われている。
相続税の土地評価では「路線価=すべて」だと思われがちですが、実はそうではありません。
同じ事務連絡の中で、相続税法上の原則もはっきりと書かれています。
相続税法上、相続若しくは遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、その財産を取得した時(課税時期)における「時価」によることとされているところであるから、相続税の申告に当たっては、絶対的に路線価等に基づいて申告をしなければならないというものではなく、路線価等に基づく評価額を下回る価額で申告された場合には、個々の事案について個別的に、課税時期における相続税法上の「時価」の解釈として、その申告が適切かどうかを判断すべきものである。
つまり、「路線価はあくまでも目安であり、最終的には課税時期の『時価』が基準になる」という考え方が、国税庁から改めて確認された形になっています。
路線価より安い価額で申告したいときの考え方
では、実際に「路線価で評価すると高過ぎる」と考えられる場合、どのような対応が想定されているのでしょうか。
事務連絡では、まず相談・申告の受付姿勢について触れています。
路線価等に基づく評価額が、その土地の課税時期の「時価」を上回ることについて、申告や更正の請求の相談などがあった場合には、相手方の申出に耳を傾ける等、路線価等に基づく評価額での申告等でなければ受け付けないなどということのないように留意すること。
納税者側から「時価はもっと低いはずだ」との相談や申告があったとき、路線価どおりでないからといって門前払いしてはいけない、という趣旨です。
さらに、いったん路線価どおりで申告した後に「やはり時価の方が低かった」という事実が分かった場合には、更正の請求の対象となり得ることにも触れられています。
評価額が路線価を下回る価額で申告された場合、税務署側はその価額が相続税法上の「時価」として適切かどうかを個別に判断することになります。
その際の具体的な判断材料として、次のような点が挙げられています。
1つ目は、「周辺の地価動向」です。
地価公示や各種地価調査などを通じて、路線価の評定基準日以後の当該地域の地価がどのように動いているかを把握します。
2つ目は、「実際の売買事例」です。
もし当該土地が実際に売却されていて、その売買価額を根拠に申告しているようなケースでは、他の売買事例と比較しながら、場所の違い・時期の違いなどを補正した上で、その価格が適正なものかどうかを検討することになります。
3つ目は、「不動産鑑定士などの専門家の意見」です。
必要に応じて精通者の意見を聞き、その土地の課税時期における「時価」を把握する、という流れが示されています。
どんな場合に見直しが認められるのか?注意すべきポイント
もっとも、「路線価より安い価額で申告したい」と納税者が主張すれば、何でも認められる訳ではありません。
事務連絡では、判断に当たっての留意点も明記されています。
1つ目は、「路線価を決定する際の評価割合(アローアンス)」との関係です。
当時は、路線価を決める際に、公示価格などから一定の割合を乗じて評価する運用がされており、平成3年分については「30%」という水準が示されています。
事務連絡では、課税時期の「時価」がこのアローアンスの範囲内にとどまっている場合、たとえ仲値(標準的な取引価格)を下回っていても、なお路線価は下回っていないため、原則として路線価等に基づく評価額によることとされています。
要するに、「少し下がった程度」であれば、路線価による評価の範囲内と考える、というイメージです。
2つ目は、「あくまで課税時期の時価」で考えるという点です。
相続開始後にさらに地価が下がったとしても、評価の基準となるのは被相続人が亡くなった時点の価額です。
事務連絡でも、「あくまでも課税時期(相続等の開始時期)の時価として判断する」ことが明記されています。
3つ目は、「仲値」での判断という点です。
売買実例を参照するときには、売り急ぎ・買い急ぎなど、特殊な事情で極端に安かったり高かったりする取引は除いた上で、標準的な水準(仲値)を見ていく必要があるとされています。
このように、路線価より低い価額での申告や更正の請求がすべて認められるわけではなく、地価動向や売買事例、専門家の意見などを踏まえて、「課税時期の時価として妥当かどうか」が慎重に検討される、という枠組みが示されているのが、この事務連絡のポイントです。
想う相続税理士
今回ご紹介した事務連絡は、バブル崩壊という特殊な地価下落局面で出されたものではありますが、「路線価と時価に大きなズレがあるときに、個別事情を踏まえて判断していく」という国税庁の考え方を今に伝える資料と言えます。
実務では、路線価どおりで問題ないケースが大半ですが、地域や時期によっては、路線価が実勢価格とかけ離れてしまうこともあり得ますので、ご注意を。
