相続税専門税理士の富山です。
今回は、一次相続が未分割の状態で、二次相続が発生した場合の、一次相続に係る遺産分割について、お話します。
遺産分割協議が成立する前に相続人が亡くなったら?
「父」・「母」・「子」というご家族がいたとします。
「父」が亡くなり(「一次相続」と言います)、「父」の相続財産について、「母」と「子」で遺産分割協議をしていたのですが、それが成立する前に、「母」が亡くなってしまった(「二次相続」と言います)とします。
「父」の相続において、「母」が取得した財産については、「配偶者の税額軽減」という特例を適用することができ、最低でも1億6,000万円までは相続税がかかりません。
「父」の相続財産を「母」がたくさん相続するような遺産分割協議を成立させ、「父」の相続税を安くしたいのですが、遺産分割協議に参加するはずだった「母」は既に亡くなっています。
このような場合、遺産分割協議ができないので、「母」は民法による法定相続分(この場合は「2分の1」)だけを相続した、ということで相続税の申告をすることになるのでしょうか?
他の相続人のみによる遺産分割協議で特例の適用可
相続税法基本通達(一部抜粋)
19の2-5 配偶者が財産の分割前に死亡している場合
相続又は遺贈により取得した財産の全部又は一部が共同相続人又は包括受遺者によって分割される前に、当該相続(以下19の2-5において「第1次相続」という。)に係る被相続人の配偶者が死亡した場合において、第1次相続により取得した財産の全部又は一部が、第1次相続に係る配偶者以外の共同相続人又は包括受遺者及び当該配偶者の死亡に基づく相続に係る共同相続人又は包括受遺者によって分割され、その分割により当該配偶者の取得した財産として確定させたものがあるときは、法第19条の2第2項の規定の適用に当たっては、その財産は分割により当該配偶者が取得したものとして取り扱うことができる。
「子」だけで遺産分割協議を成立させ、その中で、「配偶者」が取得した財産が明確になっていれば、その財産については、「配偶者の税額軽減」が適用できる、ということです。
【私見】「子」が1人の場合
上記の「子」が2人以上いる場合(例えば、「太郎さん」と「次郎さん」の場合)には、その複数の「子」による遺産分割協議(例えば、「太郎さん」と「次郎さん」さんの話し合い)により、「母」が取得する財産を自由に確定させられるでしょう。
もし、上記の「子」が1人だったとしたら(例えば、「太郎さん」のみ)、遺産分割協議はできるのでしょうか?
司法書士の先生のお話だと、仮に、そのような(実質的には相続人が1人しかいない)遺産分割協議により遺産分割協議書を作成しても、相続登記はできないとのことです。
想う相続税理士秘書
出典:TAINS(Z999-5302)(一部抜粋加工)
平成26年3月13日判決
【不動産登記法/所有権移転登記申請の却下処分/相続登記に係る中間省略登記の可否】
本件事案において、単独の相続人による遺産分割が認められないのは、前述のとおり、民法上、相続人が相続開始(被相続人の死亡)時に被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継することとされ(同法882条、896条)、複数の相続人(共同相続人)の存在が遺産分割の当然の前提とされている(同法898条)からであり、法律上遺産分割の余地がないことをもって不合理かつ不公平であるということはできない
遺産分割をしないまま第2次相続が開始し、相続人が1人となった場合において、遺産処分決定を観念する余地がないことは前記検討のとおりであり、原告の主張する上記取扱いは、実体法上の根拠がないものといわざるを得ない
従って、「父」の相続財産が土地だとすると、「母」と「太郎さん」で2分の1ずつ相続する、ということになります。
「母」に全部相続してもらって、「配偶者の税額軽減」を最大限適用する、というようなことは、できないものと思われます。
ところが、「父」の相続財産が預貯金である場合、「母」の死亡後において、「父」の預貯金は、(私の知っている範囲では)簡単に「太郎さん」の口座に解約して振り込んでもらえます。
なぜなら(私が考えるに)、関係者が「太郎さん」しかいないからです。
銀行が嫌がるのは「モメゴト」です。
「太郎さん」しかいなければ、「モメゴト」なんて起こりません。
「父」の預貯金は、結局全部(「母」を経由するとしても)、最終的には「太郎さん」のものに確実になるんだから、銀行は、「太郎さん」の口座に振り込んでくれるのです。
「母」の口座をいったん経由してから「太郎さん」の口座へ、なんていう(面倒くさい)ことはしません。
銀行は亡くなった方の口座を凍結しちゃいますからね(経由できません)。
上記で、「父」の財産を「『母』に全部相続してもらって、『配偶者の税額軽減』を最大限適用する、というようなことは、できないものと思われます」とお話しましたが、逆に、「『太郎さん』が全部相続したことにして、つまり、母は全く相続していないということにして、母の死亡による相続税が高くならないようにする」ということもできないものと思われます。
上記とは異なる解釈をされている税理士もいらっしゃいます。
上記の相続税法基本通達19の2-5を根拠に、「太郎さん」がすべて相続できる、という解釈です。
しかし、不動産について、相続登記で「父」から「太郎さん」にすべて相続させることができない(「母」と「太郎さん」の2分の1ずつの相続となる)のに、「母」の相続税の申告書上は、「父」の土地を「太郎さん」が全て相続したことにする(「母」の2分の1の持分は無いものとして「母」の相続税の申告する)というのは無理があるものと思われます。
想う相続税理士