相続税専門税理士の富山です。
今回は、相続人が名義預金として修正申告した預金について、その後の裁判で「亡くなった方の財産ではない」と判断された場合に、更正の請求が認められるかどうかが争われた裁決事例について、お話します。
出典:TAINS(F0-3-901)(一部抜粋加工)
令05-09-29裁決
裁判で「預金は亡くなった方のものではない」と判断されたケース
この事案では、亡くなった方名義ではない複数の預金口座が問題になりました。
税務調査を踏まえ、その預金を「これは亡くなった方の借名預金だろう」と結論付けて、相続人が修正申告をして相続税を納めています。
その後の展開として、相続人が金融機関を相手に「その預金は亡くなった方のものだ」と主張して預金返還請求訴訟を起こしました。
しかし裁判所は、その預金について、亡くなった方が本当の預金者であるとは認めませんでした。
判決の中では、普通預金の持ち主を判断する考え方が、次のように整理されています。
普通預金債権の帰属は、預金の原資の出捐関係、預金開設者、出捐者の預金開設者に対する委任内容、預金口座名義、預金通帳及び届出印の保管状況等の諸要素を総合的に勘案した上で、誰が自己の預金とする意思を有していたかという観点から判断するべきであると解されている。
この考え方に沿って、裁判所は、
口座の名義人と亡くなった方との関係が分からないこと
通帳や届出印は亡くなった方のご自宅にあったものの、それだけでは足りないこと
その結果、相続人が起こした預金返還請求は棄却されます。
つまり「その預金は亡くなった方のものではないから、相続財産としてあなたに渡す義務はない」という判決になった訳です。
その「判決」は更正の請求が認めらる「判決」か?
では、この民事裁判の判決が出た後、相続税はどうなったのでしょうか?
相続人は、「亡くなった方の財産ではないと裁判で否定されたのだから、相続税も払い過ぎだったはずだ」と考え、国税通則法23条に基づき、更正の請求をしました。
国税通則法23条は、ザックリ言うと「申告した後に事情が変わり、税額が多過ぎだったと分かった場合に、税務署に申告内容を直してもらうためのルール」が規定された条文です。
その中でも第2項1号は、後から裁判の判決が出て、当初の申告の前提と違う事実が法律上確定した場合に、特別に救済する仕組みになっています。
裁決では、まずこの条文の趣旨が次のように整理されています。
通則法第23条第2項第1号の規定は、判決によりその申告に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実と異なる事実が確定されて当該判決に基づく法律関係が構築された場合に納税者の救済を図る趣旨であると解され、このような同号の趣旨と同号の規定の文言からすれば、「判決により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき」とは、その申告に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実と異なる事実を前提とする法律関係が判決の主文で確定された場合又はこれと同視できるような場合をいうものと解するのが相当である。
要するに、
その後の判決で、「その預金は被相続人のものではない」と主文レベルで確定した
このような場合には、「申告の基礎となる事実が違っていた」といえるので、更正の請求で税金を減らすことができる
一方で、税務署側は、「この民事判決は、相続税を減らしたいがための稚拙な訴訟追行の結果で、客観性や合理性を欠いており、国税通則法23条2項1号の『判決』には当たらない」と主張しました。
しかし裁決では、訴訟の経緯や提出された証拠を検討した上で、
判決の内容も、預金の原資や名義人との関係が不明であることなどから一定の合理性があること
その結果、「この民事判決は国税通則法23条2項1号の『判決』に当たる」と認定され、相続人の更正の請求は要件を満たすとされました。
裁決は、次のように結論付けています。
したがって、本件判決は、通則法第23条第2項第1号に規定する「判決」に該当し、また、本件判決により、「その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき」に該当するから、同号に規定する要件に該当し…本件更正の請求は、同条第1項第1号に規定する要件に該当する。
つまり、いったんは借名預金として相続税を納めたものの、後の裁判でその前提が崩れたため、「払い過ぎた相続税を返してください」という主張が認められた、という流れです。
想う相続税理士
