【毎日更新】相続税専門税理士ブログ

同族会社に対する貸付金の債務免除を後から「なかった」と主張できる?

相続税専門税理士の富山です。

今回は、同族会社に対する貸付金の債務免除に関する裁決事例について、お話します。

出典:TAINS(F0-3-915)(一部抜粋加工)
令05-03-10裁決


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同族会社への債務免除とみなし贈与の発生

今回取り上げるのは、オーナー一族が株主である同族会社に対して、多額の貸付金があり、それを帳簿上「債務免除」として処理したケースです。

債務免除により会社の負債が減ると、その分だけ会社の純資産が増えます(「会社の価値」「会社の株式の価値」が上がります)。

同族会社の場合、その増加分は株式を通じて株主である家族に「タダで利益が移った」と考えられるため、相続税法第9条・相続税法基本通達9-2に基づき、株主が「みなし贈与」を受けたものとして贈与税の課税対象になります。

この事案でも、オーナー夫妻が代表・取締役を務める同族会社2社の総勘定元帳に、「短期借入金が減少し、対応する債務免除益が計上された」という記録が残っていました。

また、損益計算書の雑収入に債務免除益が含まれており、内訳書にも「雑益」として債務免除益の金額が記載され、その内容にしたがった法人税の確定申告も行われていました。

一方で、個人側については、税務調査の結果を受けて、株価増加分を贈与により取得したとして「贈与税の修正申告等」を自ら行っていました。

ところが後になって、オーナー側は
「そもそも債務免除の意思表示などしていない」
「税理士が勝手に債務免除として処理した」
と主張し、贈与税の負担を取り消そうとして、更正の請求を行いました。

このとき納税者側は、民事裁判で「債務免除の意思表示は存在しない」との判決を得たことや、税理士との損害賠償訴訟における和解条項などを根拠に、「債務免除はなかったのだから、贈与税もかからないはずだ」と主張したのです。

更正の請求では「自分が出した申告は誤りだった」と納税者が証明する必要がある

この裁決で特に重要なのは、「更正の請求における立証責任」の考え方です。

裁決では、次のように述べられています。

このような更正の請求の趣旨や上記各規定の文言等を併せ考慮すれば、自ら計上記載した申告内容の更正を請求する納税者側において、その申告内容が真実に反するものであることの主張立証をすべきであり、かかる主張立証がなされない限り、申告に係る税額をもって正当なものと認めるのが相当である。

つまり、「税務署に間違って多く申告してしまったので、税金を減らして欲しい」とお願いする側(=納税者側)が、

当初の申告内容が事実と違っていたこと
その結果、税額が過大になっていること
を、具体的な資料や事情で証明しなければならない、という整理です。

今回のケースでは、

法人の帳簿や決算書、法人税申告書には、債務免除益がきちんと計上されている
代表取締役の記名押印もあり、無断で作成された形跡はない
税務調査の段階では、本人も税理士も「相続税対策として債務免除を行った」と説明していた
その前提で、自ら贈与税の修正申告等を提出していた
といった事情が重視されました。

一方で、後から行われた

同族会社との確認訴訟で、「債務免除の意思表示は存在しない」との判決を得たこと
税理士に対する損害賠償請求訴訟で、「税理士が独断で処理した」と認める和解が成立したこと
については、いずれも当事者同士の関係や訴訟の進め方に照らし、「本当に債務免除がなかったことを客観的に示すものとはいえない」と判断されました。

その結果、裁決では次のように小括されています。

本件各債務免除がなかったことについて、請求人らにおいて立証がされたとはいえず、当審判所の調査及び審理の結果によっても、ほかに本件各債務免除がなかったことをうかがわせる事情は認められない。

つまり、「債務免除はなかった」と言い出した側が、それを裏付ける十分な証拠を示せていないので、当初の申告(贈与税の修正申告等)は正しいものとして扱われる、という結論になった訳です。

結果として、更正の請求はいずれも認められず、「更正をすべき理由がない」とした税務署の判断は適法とされました。

同族会社が絡む相続税対策をする場合の実務上の注意点

この裁決事例から、押さえておきたいポイントを整理します。

第一に、「相続税対策としての債務免除」は、非常に重い一手であるということです。

貸付金をチャラにする代わりに、会社(の株式)の価値が上がり、その分、株主に対する贈与税や相続税の課税につながる可能性があります。

後から「やっぱり債務免除の意思はなかった」と言い直すことは、帳簿・申告・関係者の説明内容等が揃っている限り、極めて困難です。

第二に、「税理士任せで内容をよく理解しないままサインしてしまうリスク」です。

今回の事案でも、代表者の記名押印がある法人税申告書や決算書、贈与税の修正申告等が提出されていました。

たとえ税理士に会計や税務の手続きを代行してもらったとしても、最終的な責任は納税者本人が負うことになります。

「よく分からないけれど、税理士が言うなら」という形でOKしてしまうと、後から「実は理解していなかった」「そんなつもりではなかった」と主張しても、通りにくくなってしまいます。

第三に、「更正の請求は、あくまで『例外的な救済手段』である」ということです。

一度自分で申告した内容をひっくり返すには、

具体的な事実関係を裏付ける資料
なぜ当初はそのように申告してしまったのかという経緯
を丁寧に説明・立証する必要があり、「何となく納得できないからやり直したい」という程度では認められないのです。

想う相続税理士

一度決算書や申告書に反映した取引は、後から「なかったこと」にするのは容易ではなく、更正の請求でも、納税者側に高いレベルの立証が求められますので、ご注意を。