【毎日更新】相続税専門税理士ブログ

歯科医院の口座名義は誰の財産?相続で揉める「帰属」と更正請求の落とし穴

相続税専門税理士の富山です。

今回は、歯科医院の「預金口座の帰属(誰の財産か)」と、「二次相続で減額できれば一次相続の更正請求も通るか」が争われた裁決事例について、お話します。

出典:TAINS(F0-3-773)(一部抜粋加工)
令03-05-12裁決


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預金は誰のもの?更正の請求には期限がある

舞台は、歯科医院の診療報酬が入る「屋号付き・二女名義」の預金口座です。

母が歯科医院を営んでいましたが、高齢や病状の事情もあり、実質的には二女が診療を担い、医院の運営に深く関与していました。

その後、母が亡くなり一次相続が発生し、さらに父が亡くなって二次相続が発生します。

相続税の申告の過程で、「その預金は父や母の遺産として申告すべきか、それとも二女の固有財産なのか」が大きな争点になりました。

結論として審判所は、医院口座に蓄積された預金の大部分は二女の業務収入を原資として形成され、通帳や届出印も二女が管理していたなどの事情から、口座(とそこから父口座へ移された金員)は二女に帰属すると判断しました。

つまり、父の二次相続の相続財産ではない、という判断です。

一方で、「二次相続で(固有財産だとして)減額更正がされたのだから、一次相続も後発的事由として更正請求できるはずだ」という主張は、通則法23条2項2号の射程に当たらないとして退けられました。

二次相続で直っても一次相続が直らない、という「実務で怖い結末」が出た事例です。

口座の「帰属」をどう立証するか?

この裁決が示しているのは、「名義だけ」で決まらない、という点です。

預貯金の帰属は、原資・管理・運用・贈与の有無などを総合して判断されます。

本文では、次の一般論が明示されています。

相続財産である預貯金等の帰属については、一般的にはその名義人に帰属するのが通常であるが、預貯金等は、現金化や別の名義の預貯金等への預け替えが容易にでき、親が子供の名前を使用して預金することも稀ではないことから、単に名義人が誰であるかという形式的事実のみにより判断するのではなく、その原資となった金員の出捐者、その管理・運用の状況、贈与の事実の有無等を総合的に勘案して預貯金等の帰属を判断するのが相当である。

ここから、歯科医院(医療法人化前後も含む)で実務的に集めたい証拠を、チェックリストで整理します。

A. 口座の性格を示す資料(「何の口座か」)

口座開設時の書類(銀行の申込書、印鑑票、共通印鑑票など)で、開設者が誰かを示せるか。

口座名義が「屋号付き」の場合、屋号の使用実態(診療報酬受入口座として開設した経緯)を説明できるか。

(医療法人化がある場合)法人設立前後で、診療報酬の振込先が「個人」から「法人」へ切り替わった資料が残っているか。

B. 原資(お金の出どころ)を示す資料(「誰が稼いだか」)

入金の大半が診療報酬であることを、通帳明細や支払基金・国保連等の振込記録で示せるか

例外的な入金(現金入金、家族間の資金移動)があるなら、金額と理由を分けて説明できるか

(医療法人化がある場合)法人化後に個人口座へ診療報酬が入っていないこと、入っているならその理由を説明できるか

C. 管理・運用(実際に動かしていた人)を示す資料

通帳と銀行届出印(印鑑)の保管者が誰かを、客観資料や一貫した説明で示せるか

口座から落ちている支払が、医院運営に必要なもの(医師会費、諸会費等)であることを示せるか

インターネットバンキングの利用者ID、端末、ログ等が残るなら、実際の操作主体を補強できるか

D. 「形式」と「実質」のズレを生む論点(要注意ポイント)

開業・廃業・開設者変更などの届出が、税務・行政・保険医療の世界で食い違っていないか

所得税の申告名義が実態とズレている場合、その理由を説明できるか(説明が弱いと「名義人=事業主」に寄せられやすい)

家族間で資金移動があるとき、「贈与なのか」「預り金なのか」「立替なのか」を言葉だけでなく資料で補強できるか

この裁決でも、税務署側は「届出の取り下げ」「所得税の申告状況」など形式的な事情を根拠にしましたが、審判所は動機や運用実態も含めて評価しました。

医療は、保険医療機関の開設者、診療報酬の受け取り、スタッフの雇用、法人化など、名義が動きやすい領域があります。

だからこそ、相続が起きる前から「口座の性格・原資・管理者」を説明できる形で残しておくことが重要になります。

二次相続で直ったのに一次相続が直らない理由(「特別ルート」が使える条件)

ここがこの裁決の「一番ややこしいところ」です。

できるだけ噛み砕いて言うと、相続税の「直し方」には、大きく次の2つのルートがあります。

1つ目は、普通の直し方です。

「申告した内容に間違いがあった」と気付いたら、原則として一定期間内なら、減らしてもらう手続き(更正の請求)ができます。

2つ目は、特別な直し方です。

これは「後から、他の人の税金の計算が直されて、あなたの申告と食い違いが出た」ときに、短い期間だけ使える「特別ルート」です。

通則法23条2項2号は、この2つ目の「特別ルート」の話です。

この特別ルートが用意されている理由は、とてもシンプルです。

放っておくと、同じ財産に二重に税金がかかってしまうことがあるからです。

たとえば、Aさんが「これは父の遺産だ」と申告した財産について、後になって税務署が「いや、実はBさんの財産だ」とBさん側の税金の計算を直した場合、そのままだと、Aさん側(父の遺産)でも、Bさん側でも、両方で課税されかねません。

それを防ぐために、「他の人側の税金が直されたなら、あなたもそれに合わせて直していいですよ」という仕組みが、この特別ルートです。

ところが、この裁決の一次相続では、この特別ルートの「入口条件」が満たされていない、と判断されました。

ポイントは、次の1点です。

「他の人側の税金が直された(=他の者の課税についての更正があった)」と言える状況なのかどうか。

今回、二次相続では「父の遺産に入れていたけれど、実は二女の固有財産だった」という整理で減額がされました。

ここだけ見ると、「じゃあ一次相続(母の相続)も同じように直せるのでは?」と思ってしまいます。

しかし審判所は、一次相続に関しては、通則法23条2項2号が想定する形の「他の人側の税金が直された」とは言えない、と整理しました。

そのため、一次相続は「特別ルート」では直せず、結局、一次相続の方は、すでに期限(除斥期間など)が過ぎていたので、直せなかった、という結論になります。

言い換えると、

「二次相続で直った」「一次相続も必ず直せる」ではない、ということです。

相続は、一次相続から二次相続まで時間が空くことが多いので、後から問題が見つかっても、古い相続の方は期限で「扉が閉まっている」ことがあります。

想う相続税理士

2つ目の論点(「二次相続で直ったのに一次相続が直らない理由」)は、二次相続について、「その財産は他の者に帰属するとして、『他の者の課税について更正があった』」という事実が生じていない、ということが理由のようです。