相続税専門税理士の富山です。
今回は、「相続分の放棄」と「相続の放棄」の違い、「相続分の放棄」の手続きやその影響について、お話します。
「相続分の放棄」と「相続の放棄」は別物
まず用語の整理です。
家庭裁判所で申述して「相続人でなかったことにする」のが「相続の放棄」です。
申述が受理されると、はじめから相続人ではなかった扱いになり、遺産の取得もしませんし、原則として、亡くなった方の借金も負いません。
これに対し、共同相続人に対する意思表示により「自分の取り分(相続分)を他の相続人に譲る・もらわない」と表明するのが「相続分の放棄」です。
ここでは相続人の身分は残ります。
あくまで「取り分(配分)」を手放すだけで、相続人としての地位は失われません。
手続きのハードルは低い一方、効果は限定的です。
想う相続税理士
裁判所HP(一部抜粋加工)
「相続分放棄届出書兼相続分放棄書」が提出されると、裁判所が、「排除決定」という決定をします。
排除決定がされると、あなたは本件遺産分割手続の当事者ではなくなり、今後の期日にも出席する必要はなくなります。ただし、特に必要がある場合には、相続分を放棄しても、排除決定をせず、引き続き手続に関与していただくこともあります。このような場合には、以後の期日に家庭裁判所に出頭していただく可能性があります。
なお、あなたには、この排除決定に対して不服を申し立てる権利(即時抗告権)があり、不服を申し立てることができる期間が経過するまでは排除決定は確定しません。あなたが速やかに当事者ではなくなるには、この即時抗告権を放棄するという方法があります。即時抗告権を放棄する場合は、「即時抗告権放棄書」も提出してください。
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辞退した人の取り分は元の持分比で他の相続人に按分される
「相続分の放棄」があると、辞退した相続人の取り分は、残る相続人に比例配分されます。
具体例で確認しましょう。
配偶者Aと子B・Cの三者が相続人で、法定相続分はAが1/2、Bが1/4、Cが1/4という標準ケースを想定します。
ここで子Cが「自分の取り分は要りません」と「相続分の放棄」をしたとします。
この場合、Cの1/4は、AとBの元の比率(1/2:1/4=2:1)に応じて振り分けられます。
したがって、AはCの1/4のうち2/3、すなわち1/6を上乗せ、Bは1/4のうち1/3、すなわち1/12を上乗せします。
最終的な配分は、Aが1/2+1/6=2/3、Bが1/4+1/12=1/3、Cは0となります。
重要なのは、これは「相続分の放棄」を前提にした計算である点です。
もしCが家庭裁判所で「相続の放棄」をしていれば、そもそも相続人ではない扱いとなり、初めからAとBの二者で1/2:1/2に計算し直します。
結果が大きく変わるので、注意が必要です。
「相続人の地位は残る」ゆえの責任
「相続分の放棄」では、相続人の地位が残るため、亡くなった方に借入れ等の負債があると、原則としてその法定相続分の割合で弁済責任を問われ得ます。
つまり、「取り分はいらない」と言っても、債務について直ちに免れる訳ではありません。
亡くなった方に多額の負債が見込まれるときは、家庭裁判所での「相続の放棄」や、資産・負債を選別できる「限定承認」を含めて、早期に方針を検討する必要があります(期間制限があります)。
想う相続税理士