相続税専門税理士の富山です。
今回は、相続前の通帳の動きについて、税務署が何を見るのか、そして、それに関心があるのは税務署だけではなく、相続人も同じである、ということについて、お話します。
税務署と相続人の視点は残高だけではなく「動き」そして「贈与」
相続税では、亡くなった時点の残高証明書が財産評価の起点になりますが、税務署は残高そのものよりも、生前から亡くなる直前の「お金の動き」に注目します。
典型例が、大口の引出しです。
残高が200万円でも、直前に800万円引き出されていれば、「手許現金が残っていないか」という確認に加え、「その一部が相続人等への贈与として渡っていないか」という観点で事実関係を見ていきます。
贈与の有無は、相続人間の信頼にも直結します。
「本来1,000万円あったはずの預金が目減りしているのは、誰かがもらったのでは?」という疑いが生まれやすいからです。
一方で、実際には医療費や介護費など正当な支出が多い時期でもあります。
誤解を防ぐには、支出の根拠資料と用途メモを残し、通帳の動きと照合できる状態にしておくことが大切です。
税務署は金融機関への照会で過去の取引状況を確認できますから、「通帳を廃棄すればわ分からない」という発想は通用しません。
「手許現金」か「贈与」か:見極めポイントと資料例
まず、対象となる口座を洗い出し、通帳のコピーや取引履歴を収集します。
大口の引出しや振込がある場合、次の観点で用途を確認していきます。
相続人やその配偶者・親族の口座へ振り替えられていないか
現金で手渡しした形跡がある場合、受取側のメモ・領収書・入金記録があるか
同一人物へ継続的・定期的に資金が移っていないか(生活費援助の範囲か、贈与と評価されうる移転か)
定期や保険の満期金・解約返戻金の入金後の資金移動の流れ(大きなお金が入ると人は贈与したくなるようです)
用途が曖昧な支出は、関係者の記憶が鮮明なうちにヒアリングし、日付・金額・目的を短文でメモ化します。
贈与であったことが明らかな場合は、贈与の事実を示すメモや授受の経緯、必要な場合の申告の有無・対応時期の確認を行います。
「相続人の生活費の立替」「被相続人のための費用支出」と「相続人が自由に使える資金の移転」は、見た目が似ていても評価が異なります。
領収書・請求書・振込控・受取側の通帳コピーなど、突き合わせ可能な資料の整備が、後日の説明力を左右します。
想う相続税理士
大口引出しの行き先が「手許現金」なのか「正当な支払」なのか、それとも「贈与」なのかを、通帳・履歴・領収書・用途メモで結び、時系列で説明できるよう整える、これが税務と人間関係の双方を守る近道です。
気になる取引がある場合は、事実を記録に残しつつ、早期に整理を進めましょう。
