【毎日更新】相続税専門税理士ブログ

税務署に指摘された家族名義の預貯金等が相続財産にならなかった裁決事例

相続税専門税理士の富山です。

今回は、家族名義の預貯金等が相続財産に当たるかどうかについて争われた裁決事例について、お話します。

出典:TAINS(J93-4-11)(一部抜粋加工)
平25-12-10公表裁決


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家族名義の預貯金等はテッパンの調査対象

本件は、被相続人(亡くなった方)の配偶者・子・養子(請求人ら)及びその他の親族名義の預貯金等について、税務署(原処分庁)が「被相続人の相続財産に当たる」として更正処分を行い、さらに「隠ぺい・仮装があった」として重加算税まで課したことが発端です。

請求人らは、これらの処分は違法だとして、全部の取消しを求めました。

争点は複数ありますが、中心は次の2点です。

家族名義の預貯金等が、被相続人に帰属する相続財産といえるのか。

もし相続財産だとしても、「隠ぺい・仮装」に当たるのか。

結論からいうと、この裁決では、家族名義の預貯金等について「誰に帰属するのか明らかではない」とされ、相続財産と認定できないとして更正処分が全部取り消されました。

その結果、重加算税も(検討するまでもなく)全部取り消されています。

収入と預貯金残高のバランスを確認される

家族名義の預貯金等については、「名義は家族でも、実質は被相続人の財産ではないか」という疑いが出やすいところです。

この裁決でも、審判所は、預貯金等については名義だけでなく、管理・運用状況、原資の出捐者、贈与の有無などを総合的にみて帰属を判断するのが相当だ、と整理しています。

一般的に外観と実質は一致するのが通常であるから、財産の名義人がその所有者であり、その理は預貯金等についても妥当する。 しかしながら、預貯金等は、現金化や別の名義の預貯金等への預け替えが容易にでき、また、家族名義を使用することはよく見られることであるから、その名義と実際の帰属とがそごする場合も少なくない。そうすると、預貯金等については、単に名義のみならず、その管理・運用状況や、その原資となった金員の出捐者、贈与の事実の有無等を総合的に勘案してその帰属を判断するのが相当である。

一方で、税務署側は「被相続人の収入が多額だった」「家族名義の預貯金等の残高が大きい」などを理由に、被相続人が出捐した(お金を出した)はずだと主張しました。

しかし審判所は、税務署が、使用印鑑・保管場所等の管理状況や、具体的な出捐状況について、十分な主張立証をしていない点を厳しく見ています。

さらに、当審判所の調査でも、出捐者(お金を出した人)を特定できなかったこと、贈与の有無についても「贈与がなかった」とまでは認められないことなどから、総合判断として「被相続人に帰属する」とは認められない、という整理になっています。

本件預貯金等の管理・運用の状況、原資となった金員の出捐者及び贈与の事実の有無等を総合的に勘案しても、本件預貯金等がいずれに帰属するのかが明らかではなく、ひいては、本件預貯金等が被相続人に帰属する、すなわち、相続財産に該当すると認めることはできない。

家族名義の預貯金等の成り立ちを正確に説明できる?

この裁決事例から、相続税申告における「実務上の留意点」を整理してみます。

まず、「家族名義=即アウト」でもなければ、「家族名義=安全」でもありません。

争いになったときに確認されるのは、名義以外の事情を積み上げた総合判断です。

具体的には、次のような観点が繰り返し問題になります。

誰が通帳・印鑑(届出印)を管理していたのか。

払戻しの都度、誰が判断し、誰のために使われていたのか。

そもそも元手(原資)は誰のお金なのか。

贈与で移したと言えるのか(贈与の事実、贈与に関する書類・資料があるのか)。

この裁決では、印鑑届や筆跡の比較なども行われ、管理の実態について丁寧に見られています。

そして重要なのは、「税務署が相続財産だと言うなら、具体的に主張立証する必要がある」という構図が、判断の随所に表れている点です。

ただし、納税者側としては「立証責任の議論があるから放っておいてよい」という話にはなりません。

調査では、生活実態・資金移動の説明が求められ、資料提出の内容が誤解を生むと不利に働くこともあります。

本件でも、税務署側は、提出資料(表形式の資料)の読み取りを根拠に「被相続人のものと認めたはずだ」と主張しています。

結果的にはその主張は採用されませんでしたが、こうした「資料の解釈」が争点化すること自体が、実務上のリスクです。

したがって、家族名義の預貯金等が多いご家庭ほど、相続が始まる前から、管理実態と資金の流れを言語化できる状態にしておくことが大切です。

想う相続税理士

通帳・印鑑の所在、誰が管理しているか、資金移動の理由、贈与だというのであればその根拠資料、こうした点を整理しておくことで、不要なトラブルや長期化を避けやすくなります。