相続税専門税理士の富山です。
今回は、相続税の申告における「連帯債務」の債務控除に関する裁決事例について、お話します。
出典:TAINS(F0-3-603)(一部抜粋加工)
昭63-12-22裁決
連帯債務がある場合の債務控除はどうなる?
相続税は、亡くなった方の財産の合計から、一定の債務などを差し引いて計算します。
この債務などを差し引くことを「債務控除」と言います。
通常、借入金も債務控除の対象となるのですが、借入金が「被相続人(亡くなった方)の単独の借入」ではなく、誰かと一緒に負っている形(「連帯債務」)になっていると、話が複雑になります。
連帯債務は、外から見ると「どちらも全額返す義務がある」ように見えます。
そのため相続人の立場としては、「自分が全部返したのだから、相続税でも全部控除できるはず」と感じやすいところです。
しかし相続税の計算では、「その債務のうち、被相続人が最終的に負担すべき部分はどれか」が問題になり得ます。
今回の裁決は、まさにここが争点になりました。
連帯債務は各自に全額負担義務があるけれど・・・
この事案では、相続人(請求人)は、被相続人の借入金等として合計1,077,012,587円を債務控除して申告していました。
税務署側(原処分庁)は、そのうち一部(番号1、2、3、5、6の合計895,212,587円)について、被相続人と甥Aの連帯債務だと判断しました。
そして、連帯債務の負担部分の取決めがなく、誰がどれだけ使ったかも明確ではない、という事情などから、結局「平等(2分の1ずつ)」で負担するのが相当とされました。
その結果、甥Aの負担すべき金額447,606,293円は、被相続人の債務とはいえないとして、債務控除の対象から外れています。
この「負担部分の考え方」について、裁決書(本文)では次のように述べられています。
一般に、連帯債務者間における負担部分は、当該債務者間の特約(合意)によって定まるのであるが、特約がないときは連帯債務により受けた利益の割合により定まると解されており、これによっても定まらない場合は各自が平等の割合により負担するものと解されている。
相続後に実際に全額負担したけれど・・・
また、請求人は「自分が全額支払った」とも主張しました。
しかし裁決では、「Aに対する求償権が行使不能である」という主張や証拠がなく、調査の結果、Aには相当の資産があり支払能力もあるとして、求償権が行使不能とは認められない、とされています。
この点は、実務上とても重要です。
「相続人が払った」という事実だけで、相続税の債務控除が自動的に増えるわけではなく、相手方に求償できる状況なら、その分は控除対象から外れ得る、ということです。
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