相続税専門税理士の富山です。
今回は、古くて傷みのある建物が建つ土地について、通達による評価額ではなく鑑定による評価額で相続税評価を行うことが可能かどうかが争われた裁決事例について、お話します。
出典:TAINS(F0-3-721)(一部抜粋加工)
令02-06-24裁決
財産評価基本通達は実態に合っていない?
この裁決は、相続で取得した不動産について、いったん財産評価基本通達に従って申告した後、「本当は不動産鑑定士による鑑定評価額で評価すべきだったのではないか」として、更正の請求をした事案です。
対象となったのは、古い居宅とその敷地です。
請求人側は、建物が古く、耐震面に不安があり、外壁の損傷や雨漏り、畳の腐食、配管のさびなどもあるのだから、固定資産税評価額を基に家屋を評価し、路線価等により土地を評価する通達評価では実態に合わない、と主張しました。
そして、不動産鑑定士による鑑定評価では、土地を更地として使うのが最も有利であることを前提に、更地価格から建物の取壊費用などを差し引いて価格を算定していました。
つまり、請求人の感覚としては、「こんなに古くて傷んだ建物があるのだから、通達どおりの評価では高すぎる。実際の売買感覚に近い鑑定評価額で見るべきだ」というものでした。
一見もっともらしく感じるかもしれません。
しかし、相続税の財産評価では、単に「古い」「傷んでいる」「売りにくそうだ」というだけで、すぐに通達評価を離れられるわけではありません。
原則を外れるだけの特別の事情があるか
審判所は、相続税の財産評価について、まずは財産評価基本通達による画一的な評価方法を用いるのが原則である、という考え方を前提にしています。
その上で、通達評価を使わず別の方法で評価するためには、その財産について、通達評価によるべきではない特別の事情が必要だと述べています。
本件では、家屋は昭和39年築で、その後に増築もされており、確かに相当古い建物でした。
しかも、外壁や窓枠等にひび割れがあり、一部の部屋では雨漏りが発生し、畳の腐食や天井材の剥がれも見られました。
それでも審判所は、床や柱には大きな損傷がなく、内部の移動や風雨をしのぐこともでき、多数の荷物も置かれていて、建物の骨組み自体も保持されていたことから、なお居宅としての機能を維持していたと判断しました。
つまり、「傷みはある。けれども、建物としてもう成り立っていないとはいえない」という見方です。
そのため、通常の経年劣化を前提とした固定資産評価基準による減価を超えて、さらに特別に減価しなければならない事情までは認められない、とされました。
さらに、鑑定評価額の問題点として、建物がまだ居宅としての機能を維持しているのに、土地を更地とすることを前提に評価している点も指摘されています。
審判所としては、更地前提で評価してよいだけの事情がないのに、更地価格から取壊費用を引く方法を採るのは相当ではない、という結論です。
要するに、「建物が古いから更地で考えたい」という発想だけでは足りず、現に建物がなお使える状態なら、更地前提の鑑定評価は採用されにくい、ということです。
古い建物でも建物として機能しているか
この裁決が相続手続きの場面で示しているのは、不動産の評価を下げたいと思っても、そのための理屈と証拠がしっかりしていなければ認められにくい、ということです。
特に、建物が古い、傷んでいる、使い勝手が悪い、といった事情は、一般の方からすると大きなマイナス要素に思えます。
しかし、相続税評価の世界では、それだけで直ちに通達評価を外せるわけではありません。
本件でも、請求人は不動産鑑定士の評価書まで用意していましたが、それでも、特別の事情があるとは認められませんでした。
また、手続面でも、請求人は、税務署側が現地確認も関係者への聴取もせず、机上審査だけで判断したのは問題だ、とも主張しました。
しかし、この点についても審判所は、更正の請求に対する「調査」には机上調査も含まれるとして、手続上の違法はないと判断しています。
相続税の不動産評価で争いになる場面では、結局のところ、その不動産について通達評価をそのまま当てはめるのが本当に不合理なのか、という点を、客観的資料に基づいてどこまで具体的に示せるかが重要になります。
古い建物があるからといって、常に更地前提で有利な評価ができるわけではありません。
むしろ、建物がなお機能を維持しているなら、通達評価が基本となる可能性が高い、というのがこの裁決から受ける実務的な印象です。
本件家屋等は、外壁や窓枠等にひび割れがあり、一部の部屋で雨漏りが発生して畳が腐食し、天井材の剥がれも一部にあるものの、床や柱には大きな損傷等がなく、内部の移動や風雨をしのぐことも可能であり、現に多数の荷物等が置かれ、躯体(骨組み等)自体も保持されていたことが認められるところ、これらの事情からすると、いまだ居宅としての機能を維持していたものといえる。
想う相続税理士
相続税評価では、財産評価基本通達による評価がまず出発点になります。
そこから外れるには、単なる老朽化や損傷を超えた、はっきりした事情と根拠が必要です。
不動産の評価は、相続税額に大きく影響します。
だからこそ、見た目の印象や不動産会社の感覚だけで判断せず、相続税の評価実務を踏まえて慎重に検討することが大切です。
