【毎日更新】相続税専門税理士ブログ

建物が建っていれば借地権が発生する?

相続税専門税理士の富山です。

今回は、「バッティングセンターの敷地に借地権があるかどうか」が争われた裁決事例について、お話します。

出典:TAINS(J59-4-26)(一部抜粋加工)
裁決日:平成12年6月27日


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バッティングセンターの敷地でも「借地権がある」と言えるのか?

まず、どんな状況だったのかから整理します。

ある方がお亡くなりになり、その方名義の土地が相続税の対象となりました。

その土地の一部は、昔から第三者に貸してあり、そこではバッティングセンターが営業されていました。

敷地の一角には、バッティングセンターの待合スペース(休憩フロア)や、野球用品の売店、倉庫などの建物も建っていました。

相続人側は、「この部分には借地権があるはずだから、土地の価額から『借地権の価額』を差し引いて評価すべきだ」と主張しました。

なぜこれが重要かというと、相続税では土地を評価するとき、そこに他人の借地権(=その人が使い続ける権利)が発生していると、その分だけ土地の評価額を下げられる場合があるからです。

評価額が下がれば、相続税も下がります。

つまり、「借地権がある土地だ」と言えるかどうかは、そのまま納める相続税に影響する、ということです。

ここで争いになったのが、「バッティングセンター用に貸していた土地」の一部に、本当に相続税評価上の「借地権」があるのかどうか、という点でした。

相続人側は、「実際に建物が建っているのだから、借地権が発生している」と主張しました。

一方で税務署側は、「これはいわゆる建物所有目的の借地権とはいえないので、借地権の控除はできない」と反論しました。

この真っ向勝負が、最終的に裁決にまで持ち込まれました。

裁決はどう考えた?カギは「土地を借りた一番の目的」

裁決がポイントにしたのは、「そもそも、何のためにその土地を借りていたのか」という目的でした。

裁決はまず、評価通達における借地権の考え方を、次のように述べています。

評価通達9の(5)は、同通達にいう借地権とは借地借家法第2条第1号に規定する建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権をいう旨定めているところ、この「建物の所有を目的とする」とは、借地使用の主たる目的がその地上に建物を建築し、これを所有することにある場合をいい、借地人がその地上に建物を建築し所有しようとする場合であっても、それが借地使用の主たる目的ではなく、その従たる目的にすぎないときは、「建物の所有を目的とする」ものに該当しないと解される。

つまりこういうことです。

「建物が建っていれば自動的に借地権が発生する」という訳ではない、ということです。

土地を借りた本当の目的が「建物を建ててそこに住む」等というものであれば、典型的な借地権になります。

しかし、土地を借りた目的が別にあって、建物はその目的を達成するための「付属物」に過ぎない場合には、それは借地権として取扱わない、という整理です。

では、このバッティングセンターの場合はどうだったのでしょうか?

裁決は、実際の利用実態を細かく見ています。

バッティングセンターのネット・打席・待合スペース・売店・倉庫は、ひとつの営業施設として一体的に機能していました。

つまり、土地は「バッティングセンターという事業を行う場所」として借りられていた、という判断です。

その上で、裁決は次のように結論づけます。

賃借人Fは、本件敷地を含む本件土地を昭和53年ころから本件相続開始日まで引き続いてバッティングセンター経営の事業用地として利用し、本件待合フロアー及び本件店舗はバッティングセンターと構造上一体となっており、本件倉庫も含めて本件構築物はいずれもバッティングセンターの経営に必要な付属建築物として建築されたものと認められるから、本件土地の賃貸借の主たる目的は、バッティングセンターとして使用することにあるといえる。そうすると、Fが本件構築物を建築所有していたとしても、それは本件土地をバッティングセンターとして使用するための従たる目的にすぎないというべきであるから、本件土地の賃貸借は、借地借家法第2条第1号に規定する建物の所有を目的とする賃借権に該当せず、したがって、本件敷地には、評価通達9の(5)の定める借地権は存在しない。
なお、請求人は、本件建築物は誰が見ても通常の建物であり、本件敷地部分には評価通達に定める借地権がある旨主張するが、本件賃貸借契約において、契約当事者が本件建築物の敷地部分のみを切り離して建物所有目的としていたとはいえないから、請求人の主張には理由がない。

つまり、バッティングセンターをやることが主目的であり、建物を所有して行う事業が主目的ではない、したがって、この土地には相続税評価上の「借地権」は認められない、という判断になりました。

相続人側としては「建物がある以上、借地権控除で土地の評価額を下げたい」という狙いがありましたが、それは通りませんでした。

この土地は、「『賃借権』の目的となっている『雑種地』」として評価すべき、とされました。

想う相続税理士秘書

想う相続税理士

ただ貸しているだけでは借地権は発生せず、建物の所有を目的としていないと(ザックリ言うと「建物が建っていないと」)ダメで、さらに、ただ建っているだけではダメで、その賃貸借が「建物の所有をメインの目的とする」ものでなければならない、ということです。

さらに、地代の金額も関係します。