相続税専門税理士の富山です。
今回は、会社の役員が亡くなった場合に支払われる「死亡退職金」の受取人について、お話します。
死亡退職金とは何か?
会社の役員や従業員が亡くなった場合、会社からご遺族に、そのご遺族の生活保障のために「死亡退職金」が支払われる場合があります。
この死亡退職金は、「みなし相続財産」として相続税の課税対象となります。
「亡くなったご本人の財産をご遺族がそのまま引き継ぐ」のではなく、「会社が遺族に(亡くなった方を経由せずに直接)支払う」ものなのですが、亡くなった方の財産(「本来の相続財産」)と同じように、その経済的実質を鑑み、相続財産とみなして(「みなし相続財産」と言います)、相続税が課税されることになっています。
「本来の相続財産」は、相続人間における遺産分割協議によって取得者が決められたりしますが、死亡退職金は、会社の規程(「退職金規程」「役員退職金規程」等)により受取人が決められている場合は、その受取人が直接そのお金を受け取る、ということになります。
つまり、誰を受取人に設定しておくかは、実はかなり重要なのです。
死亡退職金の受取人は誰になっていることが多い?
では、実際には誰が死亡退職金をもらうことになるのでしょうか?
多くの会社では「退職金規程」「役員退職金規程」等といったルールを作り、その中で受取人の優先順位をあらかじめ決めています。
典型的な順位は、第一順位が配偶者、次に子、その次に父母・孫・祖父母・兄弟姉妹というように、親族関係が近い順になっていることが多いです。
そのため、配偶者の方がいらっしゃる場合には、まず配偶者が受取人となることが多いのです。
死亡退職金には非課税枠がある
相続人(相続を放棄した方や相続権を失った方を除く)が取得した死亡退職金の合計額が、
死亡退職金の非課税枠=500万円×法定相続人の数
以下である場合には、相続税が課税されません。
退職手当金等を合計した額が、非課税限度額以下のときは課税されません。
配偶者には非課税枠がある
亡くなった方の配偶者が相続で取得した財産については、正味遺産額が次の金額のどちらか多い金額以下である場合には、相続税がかかりません。
- 1億6,000万円
- 配偶者の法定相続分相当額
つまり、最低でも1億6,000万円の非課税枠があるのです。
配偶者以外を死亡退職金の受取人にする
上記でお話したとおり、配偶者は相続税がかからなかったり、軽い負担で済むようになっています。
そのような配偶者が、さらに非課税枠が適用できる死亡退職金を受け取ることにメリットがあるでしょうか?
財産調査をしていたところ、新たに2,000万円の普通預金が見つかったとします。
1億4,000万円の財産を相続することになっている配偶者が相続すれば(しても)、合計で1憶6,000万円以下ですので、相続税はかかりません。
長男Aさんが相続すれば、相続税がかかります。
このような場合、(二次相続の相続税の検討は別として)配偶者が相続することで、一次相続の相続税を節税する効果が生まれます。
亡くなった方が同族会社の役員で、2,000万円の死亡退職金が支払われることになったとします。
法定相続人は4人なので、この死亡退職金には相続税がかからないとします(非課税枠500万円×4人=2,000万円≧死亡退職金2,000万円)。
上記の1億4,000万円の財産を相続することになっている配偶者が受け取っても、もちろん相続税はかからないのですが、非課税枠を適用しなくても、相続税はかかりません。
つまり、配偶者が取得すると、非課税枠の恩恵を受けられない場合があるのです。
それより、上記の長男Aさんが相続した方が節税メリットがあります。
通常、財産を相続すると相続税がかかるのに、無税で財産(死亡退職金)を受け取ることができるからです。
つまり、死亡退職金の受取人は、配偶者以外の相続人の方にした方が、相続税が安くなる場合があるのです。
「退職金規程」「役員退職金規程」等を確認し、受取人の変更を検討しましょう。
後継者は、会社の株式など会社に関わる資産を相続することが多く、その結果として相続税の納税資金にも頭を悩ませることになります。
さらに、遺産分割の場面では、他の相続人に対して代償金(代償分割金)を支払う必要が出ることもあります。
会社を守るためにも、他の相続人に納得してもらうためにも、後継者には「すぐに使える現金」が必要です。
この「現金の原資」として死亡退職金を使えるようにしておくのです。
そのためには、会社の「退職金規程」「役員退職金規程」等の中で、死亡退職金の受取人や受取順位を、配偶者だけでなく後継者(たとえば長男の方)を第一順位にしておく、という設計も検討の価値があるのです。
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