相続税専門税理士の富山です。
今回は、雇用主契約の死亡保険金が退職手当金(死亡退職金)に該当するのか、また遺族が受取後に会社へ贈与した場合、課税関係がどうなるのかについて争われた裁決事例について、お話します。
出典:TAINS(J60-4-41)(一部抜粋加工)
平12-09-20裁決
本件の概要と結論の骨子
会社(雇用主)が契約者、亡くなった方(役員)が被保険者、受取人が遺族という生命保険がありました。
遺族は合計約1億9,107万円の死亡保険金を受け取り、そのうち約1億945万円を「贈呈協定書」に基づき会社に贈与しました。
遺族は手元に残った約8,055万円を「死亡退職金」として申告しましたが、税務署は死亡保険金全額(約1億9,107万円)が「生命保険金」だと指摘しました。
審判所は、退職金として支給する明確な意思表示や手続(定款・株主総会決議・内規等)が整っていないとして、税務署の処分を認めました。
雇用主が、その従業員や役員のために、これらの者を被保険者とする生命保険契約の保険料を負担している場合において、被保険者の死亡によりその相続人等が死亡保険金を取得したときには、雇用主の負担した保険料はその従業員や役員が負担したものと解し、死亡保険金は相続税の対象とするのが相当である。
しかし、雇用主が、その死亡保険金を退職手当金等として支給することとしている場合には、その死亡保険金は退職手当金等に当たるものと解するのが相当であるが、その判断は、雇用主である企業の定款、株主総会、社内規程、就業規則、労働協約等において、その死亡保険金が退職手当金等として支給されるものである旨の意思が明らかにされているか否か等を考慮して行うのが相当である。
この事例では、退職慰労金として支給するための定款・株主総会決議・内規の整備や具体的な決議がなく、遺族が受け取った保険金は「死亡退職金」ではなく「生命保険金」に該当すると判断されました。
形式と意思表示
「退職手当金(死亡退職金)」として扱うには、会社側に「退職金として支給する」という明確な意思表示と手続が必要です。
具体的には、定款の定め、株主総会決議、取締役会承認、役員退職慰労金内規・退職金規程の整備など、社内で一貫した決定プロセスが求められます。
J社においては、取締役の退職慰労金について、定款で、株主総会の決議により定める旨規定し、また、役員退職慰労金内規で、その金額は、株主総会において承認された金額又は株主総会の決議に従い取締役会において決定した金額とする旨規定されているにもかかわらず、本件被相続人に対する退職慰労金の支給については、株主総会において何ら決議されておらず、また、本件死亡保険金を退職手当金等として支給する旨の定めもない。
口頭合意や社内メモ的な取り決めだけでは足りません。
このことからすれば、請求人が本件生命保険契約に基づき取得した死亡保険金は、退職手当金等としては認められないというべきである。
「死亡退職金」としたい場合には、相続開始前における契約・受取人の設計から、社内規程、株主総会決議、支払決定手続まで、形式面の整備と意思決定の証拠の保存に留意する必要があります。
受取後に会社へ贈っても「生命保険金」
遺族が受け取った死亡保険金の一部を会社に贈与しても(実質的に返したとしても)、相続税の課税対象は変わらない、としました。
そして、雇用主たるJ社は、被相続人の生存中に本件生命保険契約を締結し、その保険料を支払うのみで、本件死亡保険金については何ら権利はなく、請求人は、被相続人の死亡により、当然に本件死亡保険金を取得することができるのであるから、請求人が取得した死亡保険金は、その全額が生命保険金として相続税の課税対象となる。
想う相続税理士
500万円×法定相続人の数
で計算される「生命保険金の非課税枠」・「死亡退職金の非課税枠」をダブルで適用できます(相続人の方が受け取ることが条件)。