相続税専門税理士の富山です。
今回は、同族会社に対する貸付金債権を相続税申告で「0円」と評価できるかが争われた判決事例について、お話します。
出典:TAINS(Z271-13620)(一部抜粋加工)
令和3年10月22日判決
同族会社への貸付金を「0円」で評価
本件は、亡くなった方が自分の同族会社に貸していたお金(貸付金債権)が、相続財産に含まれるのか、含まれるとしたらいくらで評価するのか、が争点となりました。
原告(相続人)は、貸付金債権について「回収が不可能または著しく困難だ」として、財産評価基本通達205(以下、評価通達205)を使い、評価額0円で相続税申告をしました。
一方で税務署側は、評価通達204により、原則どおり「額面(残高)で評価する」として更正処分等を行いました。
「身内の会社に貸していたお金で、会社は債務超過気味だったから、実質的には返ってこないはずだ」と考えたくなる場面です。
しかし、相続税の評価は「感覚」ではなく、課税時期(相続開始時点)における「客観的な事情」で判断されます。
この点を誤ると、後から更正され、追加納税だけでなく加算税の問題にもつながり得ます。
0円評価は認められず原則どおりの「額面評価」に
裁判所は、貸付金債権の評価について、原則は「返済されるべき金額=額面」で評価する(評価通達204)と整理しました。
そして、例外として「評価通達204の元本価額に算入しない=相続財産に含めない」(評価通達205)ためには、一定の要件を満たす必要があると述べています。
ポイントは、評価通達205にある「その他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるとき」の解釈です。
裁判所は、これをかなり厳格に捉えました。
以下は、本件の判断枠組みが端的に示されている部分です。
評価通達205は、貸付金債権等の元本価額を相続財産に算入しない場合として、同(1)ないし(3)と並列して同柱書において「その他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるとき」を挙げていることからすれば、評価通達205柱書の「その他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれる」とは、同(1)ないし(3)と同程度に、債務者が経済的に破綻していることが客観的に明白であり、そのため債権回収が不可能又は著しく困難であると確実に認められる場合をいうものと解するのが相当である。
つまり、「返ってこなさそう」では足りず、「経済的破綻が客観的に明白」といえるレベルが必要だ、という考え方です。
本件会社は債務超過が続き損失計上もあり、決して良好とは言えない状況でした。
それでも裁判所は、相続開始時点で直ちに支払不能になることが確実とまではいえない、と整理します。
加えて、相続開始後も約2ヶ月は事業を継続していたこと、倒産手続きではなく清算結了に至ったことなどから、相続開始時点で「客観的に明白な破綻」とまでは言えないと判断しました。
その結果、評価通達205は使えず、評価通達204により額面評価が適法、と結論づけています。
したがって、本件会社が、本件相続開始時において、経済的に破綻していることが客観的に明白であったということはできないから、本件貸付金債権について、「その他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれる」事由があるということはできず、本件貸付金債権について評価通達205を適用して、本件貸付金債権の評価額を0円と評価することはできない。
「事業廃止の決議があった」「預貯金が少ない」「返済原資が乏しい」といった事情だけでは、0円評価まで持っていくのは難しい、というメッセージが読み取れます。
同族会社への貸付金を0円評価したい場合
相続で出てくる「同族会社への貸付金」は、納税者側が「実質」を主張したくなる典型論点です。
しかし本判決からは、評価通達205を使うには、課税時期において「客観的に見て破綻している」ことを、証拠で積み上げなければならないことが分かります。
また、同族会社の場合は、裁判所が示したとおり「親族が資産提供して継続する」可能性も評価に影響し得ます。
そのため、「返ってこないはず」という感覚があっても、課税時期の客観資料で固められないと、0円評価は通りにくい点に注意が必要です。
逆に言えば、どうしても回収困難として評価を下げたい場合には、課税時期の時点での客観的破綻を示す資料を、後からではなく相続税申告の段階で整理しておくことが重要です。
同族会社への貸付金が相続財産に含まれている場合には、評価通達204・205のどちらで整理するのが適切か、早い段階で申告方針を固めることをおススメします。
想う相続税理士
ただし、評価通達205による減額や0円評価が認められるためには、相続開始時点での「客観的に明白な破綻」等、厳格な要件と証拠が求められます。
金額が大きい論点だからこそ、課税時期の事実関係と資料を丁寧に押さえ、安易な判断を避けることが大切です。

