相続税専門税理士の富山です。
今回は、遺産分割が後から成立したので配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使えるはずだ、として行った更正の請求に関して争われた判決事例について、お話します。
出典:TAINS(Z262-12033)(一部抜粋加工)
平成24年9月12日判決
特例は後から適用できても期限の制限がある
本件は、相続開始後に相続税の更正処分を受けた後、遺産分割が成立したケースです。
遺産分割成立後、配偶者の税額軽減や、小規模宅地等の特例を適用したいとして、相続人が「更正の請求」を行いました。
しかし、税務署長は「更正すべき理由がない」として通知し、相続人側はその取消しを求めて争いました。
ここで核心になるのが、「更正の請求には期限がある」という点です。
相続税の更正の請求は、相続税法第32条等の枠組みの中で、一定の期間内に行う必要があります。
遺産分割が後からまとまったとしても、「いつでもやり直せる訳ではない」のです。
期限を過ぎたら認められない
本件の争点は、本件各更正請求が相続税法32条所定の更正の請求の期間内にされたものか否かであり、関係法令の定め、前提となる事実及び争点に対する当事者の主張は、後記3のとおり当審における控訴人らの主張を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中「第2事案の概要等」の1ないし3に記載のとおりであるから、これを引用する。
相続人側は、裁判所から書類が届いた日などを踏まえ、「裁判書の送達から4ヶ月以内に更正の請求をすればよい」と理解していた、という趣旨の主張をしています。
さらに、税務署職員から電話で同旨の説明があった、とも主張しました。
しかし、判決は「そのような教示があったことを認めるに足りる証拠はない」として、主張を採用しませんでした。
しかし、前記各職員が、控訴人らに対し、控訴人らの主張するような教示をしたことを認めるに足りる証拠はない。
そして結論としては、更正請求は期間経過後であり、通知処分に取消されるべき違法はない、という整理になっています。
この構造自体は、相続税の実務でも非常に示唆的です。
「事情が動いたから後で特例を使えるはず」という感覚と、「更正の請求の法定期限」というルールが真正面からぶつかる典型例だからです。
遺産分けがまとまらないことも考えておく
相続では、遺産分割協議がすぐにまとまらないことは珍しくありません。
不動産が多い相続、相続人が遠方にいる相続、関係がこじれている相続では、分割まで年単位でかかることもあります。
一方で、相続税の申告期限は「相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内」という時間軸で進みます。
そのため、申告時点で分割が未了の場合、特例を「いったん使わずに一定の手当てをしつつ申告する」という判断・手続きが必要になります。
ここで重要なのは、後から分割が成立した場合に「どの手続で・いつまでに」リカバリーできるのかを、最初から見通しておくことです。
本判決が示すとおり、更正の請求は万能の後出し手段ではなく、期限管理がつきまといます。
「分割が終わってから考える」ではなく、「分割が長引く前提で、期限と選択肢を先に設計する」ことが大切になります。
想う相続税理士
相続は、手続きが進むほど「期限」が静かに効いてきます。
特例を使えるかどうか以前に、使うための「入口」である期限管理を外さないことが、後悔しない相続税申告につながります。
遺産分割が長引きそうなときほど、早い段階で専門家と一緒に手続の道筋を作っておくのが安全です。
