相続税専門税理士の富山です。
今回は、相続直前の新株発行や配当によって非上場株式の相続税評価額を下げた場合に、それがそのまま認められるのかが争点となった判決事例について、お話します。
出典:TAINS(Z888-2742)(Z888-2738)(一部抜粋加工)
令和7年6月19日判決・令和7年1月17日判決
相続直前の対策で非上場株式の評価が下がる?
今回の事案では、被相続人(亡くなった方)が相続開始の前に、多額の現預金を資産管理会社に出資し、その会社が新株を発行するという動きがありました。
さらに、その会社では配当も行われていました。
その結果、財産評価上、その会社の株式をより低く評価しやすい形になりました。
納税者側は、評価通達上のルールに従っているので、併用方式などにより低い評価額になっても問題ない、と考えました。
これに対し、課税庁は、そのような評価では著しく不適当であるとして、評価通達6を使い、純資産価額方式による高い価額で更正処分を行いました。
つまり、納税者側は「通達どおりに計算したのだから、その金額でよい」と主張し、課税庁側は「形式的には通達に当てはまっても、この事案でそのまま使うのは不公平だ」と考えたわけです。
この種の事件は、単に計算式の細かい違いが問題になるのではありません。
相続の直前に行われた行為によって、株価評価が大きく下がっている点を、裁判所がどう見るかが大きな争点となっています。
評価通達に従うのが平等?従わないのが平等?
この事件は、東京地裁では納税者側が勝訴していました。
地裁は、たしかに相続税の負担は減っているものの、その減少は新株発行や配当だけで生じたものではなく、そもそも評価通達が一定の場合に併用方式を選べる仕組みにしていることにもよる、と見ました。
そのため、課税庁がこの納税者だけ通達と異なる高い評価額を使うのは、平等原則に反すると判断しました。
しかし、東京高裁はこの考え方を採りませんでした。
高裁は、まず、相続税法22条のいう「時価」は客観的な交換価値であり、評価通達はその評価方法を示した通達にすぎない、と整理しました。
その上で、本件で課税庁が採用した1株3,443円という価額は、外部の株式価値算定報告書の評価額1株3,488円よりも低く、過去の払込価額や後日の譲渡価額も上回っていないことから、時価を超えているとはいえないと判断しました。
さらに高裁は、本件の新株発行等によって課税価格や相続税額が大きく下がっており、その軽減額や軽減割合は無視できない水準であると見ました。
そして、相続税の負担軽減を意識して行われたことも認定しました。
その結果、評価通達に従って評価しているからといって、そのまま低い評価を認めると、他の納税者との間に看過し難い不均衡が生じると判断したのです。
そのため、高裁は、評価通達6によって純資産価額方式へ引き直した課税庁の処分を適法とし、地裁判決を取り消しました。
評価通達に従って評価していればOKというわけではない
この判決から学べることは、「相続税を下げるために相続直前に会社や財産の形を大きく動かした場合、それが通達の計算上は有利に見えても、そのまま認められないことがある」ということです。
特に非上場株式は、会社の規模、資産の内容、配当の状況などによって評価方法や評価額が変わります。
そのため、相続前に増資、配当、資産の入替えなどを行うと、見かけ上は大きく評価額が下がることがあります。
しかし、それが相続税の負担を大きく下げる目的で行われ、しかも結果として他の納税者との公平を欠くと見られる場合には、課税庁から否認されるリスクがあります。
しかも今回の判決では、「通達に書いてある方法に当てはまるか」だけでなく、「その結果が時価や公平の観点から見てどうか」という点まで踏み込んで判断されています。
つまり、非上場株式が関係する相続税対策では、単に評価額が下がる方法を探すだけでは不十分なのです。
想う相続税理士
節税になるかどうかだけでなく、その対策が後で説明できるか、という視点も非常に重要です。
