相続税専門税理士の富山です。
今回は、相続税対策に潜むリスクと、制度変更への備えについて、お話します。
相続税対策は不確実性を前提にせざるを得ない
相続税対策を講じる際には、現行の税制に基づいて判断を下すのが一般的です。
たとえば、贈与税の課税方法(制度)には「暦年課税」と「相続時精算課税」がありますが、それぞれの仕組みを踏まえた対策を立てることになります。
ただし、これらの制度の現行の内容が将来にわたって続く保証はありません。
過去にも税制改正により相続税の基礎控除額が縮小されたり、課税の仕組みが変更されたりといったことがありました。
つまり、現時点で「最適」と思われる対策が、税制改正によって「失敗」に変わってしまう可能性があるのです。
特に「相続時精算課税」は、一度選択するとその特定贈与者からの贈与については、二度と「暦年課税」に戻せません。
2,500万円の特別控除額を活用して多額の贈与を行った場合、その金額が大きいだけに、将来的な制度変更などによるリスクも相応に大きくなる可能性があります。
税制の複雑化が判断を難しくしている
相続税や贈与税の制度は年々複雑になっており、ちゃんと勉強しないと、全体像を正確に把握することが難しくなってきています。
その結果、「ややこしい制度に振り回されるくらいなら、シンプルに暦年贈与だけを続けていけばいいのでは?」と考える方もいらっしゃるかもしれません。
確かに、毎年110万円以内の贈与であれば、その時点では非課税となるため、堅実な方法に見えるかもしれません。
ただし、家族構成や財産規模によっては、むしろ相続時精算課税を活用した方が効果的な場合もあります。
複雑だからといって敬遠するのではなく、各制度の特徴やご自分の家の状況を踏まえた上で判断することが大切です。
また、贈与税ではなく、相続税の仕組み自体が将来的に変更される可能性もゼロではありません。
基礎控除額や税率、特例の内容などが見直されれば、想定していた節税効果が得られなくなるリスクもあります。
それでも対策を講じる必要性がある
こうした不確実性があるからといって、「では、何もせずに放置しておけばいいのか?」というと、それは大きな誤りです。
税制が複雑であることや、将来の変更が読みきれないことは事実ですが、それにより何も手を打たなければ、結果として多額の相続税を支払うことになってしまう可能性があります。
大切なのは、現行制度に基づく対策を立てつつも、「制度が変更された場合にはどうなるか?」「代替手段はあるか?」といったシミュレーションをしておくことです。
これまでの税制改正の傾向から、どのような方向に制度が動く可能性があるのかを予測しながら、柔軟に対応できるよう備えておくのが理想です。
不確実性を抱える相続税対策ではありますが、だからこそ、きちんと勉強して、複数のシナリオに備えることが重要です。
想う相続税理士
完璧な対策を目指しつつも、不確実性を前提とした柔軟な設計も鍵となります。
ご家族の状況に合った最適な対策を選ぶためにも、早めのご検討をおすすめします。