相続税専門税理士の富山です。
今回は、相続財産となる預貯金の取扱いについて、お話します。
預貯金の取扱いは簡単なようで簡単ではない
相続が発生した場合、亡くなった方名義の預貯金は、原則として相続人全員の共有状態(遺産共有)になります。
ここで大切なのは、「相続の対象となる財産の評価の基準時」と「遺産分割の対象となる具体的な財産」を分けて考えることです。
評価の基準は、原則として相続開始時点となります。
一方、遺産分割は、分割の時点で実際に存在する個々の財産をどう分けるか、という話になります。
では、相続開始後に起きた動き、たとえば、相続人がATMで引き出した、あるいは第三者からの入金(賃料など)が口座に振り込まれた、等はどう取り扱えばいいのでしょうか?
「亡くなった後の動きも全部遺産に反映させる」訳ではありませんし、逆に「引き出した者勝ち」としてしまうのも危険です。
相続人間のトラブルや、不当利得や使途の説明義務等の問題が生じる等の火種になり得ます。
「動く預金」をどう分ける?
預貯金は、1つの債権でありながら、日々残高が動く「流れる器」のような性質を持ちます。
この特殊性を踏まえると、次の2つの見方が検討されます。
ひとつは、原則論を貫く見方です。
すなわち具体的相続分(どのくらい取り分があるか)を決める基礎となる金額は、相続開始時の預貯金残高とし、相続後の入出金はその基礎に入れない、という考え方です。
そして遺産分割の対象も、分割時点で「残っている預金」のうち、相続開始後に入ってきた部分は分け物から外す、という考え方です。
理論的には筋が通りますが、相続後の入出金を遺産部分と非遺産部分に切り分ける作業が煩雑になり、整理が難しくなる場合があります。
もうひとつは、普通預金の「動く性質」を重視し、分割時の残高を基準にシンプルに扱う方向性です。
入出金の1つ1つを遡って仕分ける作業を最小化でき、相続の迅速・円滑化に資する面があります。
ただし、相続後に入ってきたお金(例えば亡くなった方所有の賃貸物件からの賃料)をどう位置づけるかについては、その内容・性質を見極めた上で判断する必要があります。
相続税の申告の基準は揺らがない!
相続税の申告における預貯金の財産計上等には、上記のような曖昧さはありません。
相続開始時点の残高を計上し、定期預金等については、既経過利息を加算します。
相続後に入金となったものについては、相続人の収入となる場合もあれば、亡くなった方の収入(未収入金としての財産)になる場合もあります(契約内容等により判断します)。
また、葬祭費など相続税の課税対象とならない収入もあります。
相続後に出金となったものについては、亡くなった方の債務として債務控除の対象になるものもあれば、ならないものもあります(こちらも内容等により判断します)。
しかし、その基準は明確です。
想う相続税理士
相続開始後の入出金を精査するのは大事です。
相続税の申告書を作成する上では当然必要です。
未収入金や債務として処理できる部分は、申告書上もそのように処理しなければなりません。
それ以外の部分についても、相続人間で個々に協議・判断するのは結構なのですが、課税上弊害がなく、相続人全員が納得するのであれば、ザックリとした処理でスムーズに遺産分けの手続きを進めることも重要と思われます。