相続税専門税理士の富山です。
今回は、相続税申告書の添付書類としての遺産分割協議書について、お話します。
コンテンツ
そもそも遺産分割協議書は相続税の申告書に添付しなくてもいい?
国税庁HP(一部抜粋加工)
相続税の申告のしかた(令和6年分用)
(参考) 相続税の申告の際に提出していただく主な書類
2 相続税の申告書に添付して提出していただく主な書類は次のとおりです。
(1) 一般の場合((2)~(16)の特例等の適用を受けない場合)
② 遺言書の写し又は遺産分割協議書の写し (注2)
(注)2 ②の書類については、提出をお願いしている書類です。
国税庁のホームページを見ると、特例等の適用を受けない相続税申告の場合には、遺産分割協議書については「提出をお願いしている書類」となっています。
だからと言って、提出しなくていい書類、という訳ではなく、提出しなかったら、「提出をお願いされることになる」ものと思われます(遺言があったり、遺産未分割だったりした場合以外で、遺産分割協議書を提出しなかったことがないので分かりませんが)。
仮に、遺産分割協議書のコピーを添付しなくてもいいのであれば、実際と異なる遺産分けの内容で相続税の申告をしてもいいのでしょうか?
そのようなことをする(他の人が相続したのに自分が相続したことにして相続税の申告・納付をする)と、本来、他の相続人等が負担すべき相続税を負担している(その相手は負担してもらっている)という状況になるため、その税負担相当額の「贈与」が発生し、相続税に加えて贈与税が課税される可能性があります。
「でも相続税が110万円以下だったら負担してあげても贈与税がかからないんだからいいんじゃない?」などと考えるのであれば、ちゃんと遺産分割協議書を添付して、その内容に従って申告し、(相手が相続税を納付するお金がないのであれば)その納付すべき相続税相当額の納税資金を贈与してあげましょう(非課税枠内の贈与であれば贈与税はかかりません)。
また、贈与が発生するかどうかだけの話ではなくなる場合もあります。
事実(実際の遺産分け)と異なる内容の相続税の申告をした場合、それが隠ぺい仮装行為に該当し、重加算税が課税される可能性があるものと思われます。
国税通則法(一部抜粋)
第68条 重加算税
第65条第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、かつ、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書又は第23条第3項に規定する更正請求書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。
相続人間で後でモメないようにするためにも、遺産分割協議書はきちんと作成し、その内容に従って作成した相続税の申告書と一緒に提出しましょう。
配偶者の税額軽減の適用を受けるためには「署名」と「実印の押印」が必要
上記の「相続税の申告のしかた」には、「遺産分割協議書の記載例」が載っているのですが、そこに、
(注)2 遺産分割協議書に押印する印は、その人の住所地の市区町村長の印鑑証明を受けた印を使用してください。
と書かれています。
つまり、遺産分割協議書には実印を押印しろ、ということです。
では、名前の部分はどうでしょうか?
自分で名前を書く「署名」をする必要があるのでしょうか?
それとも、ゴム印(私も持っていますが)を押印したり、遺産分割協議書に元々印字する「記名」でもいいのでしょうか?
相続税の特例の1つである「配偶者の税額軽減」の適用を受けるためには、「実印の押印」とともに「署名」が必要です。
相続税法基本通達(一部抜粋加工)
19の2-17 財産の分割の協議に関する書類
相続税法施行規則(昭和25年大蔵省令第17号。以下「法施行規則」という。)第1条の6(配偶者に対する相続税額の軽減の特例の適用を受ける場合の記載事項等)第3項第1号に規定する「財産の分割の協議に関する書類」とは、当該相続に係る共同相続人又は包括受遺者がその相続又は遺贈に係る財産の分割について協議をした事項を記載した書類で、これらの者が自署し、これらの者の住所地の市区町村長の印鑑証明を得た印を押しているものをいうのであるが、共同相続人又は包括受遺者が民法第13条第1項第10号《保佐人の同意を要する行為等》に規定する制限行為能力者である場合には、その者の特別代理人又は法定代理人がその者に代理して自署し、当該代理人の住所地の市区町村長の印鑑証明を得た印を押しているものをいうのであるから留意する。
小規模宅地等の特例の適用を受けるためにも「署名」と「実印の押印」が必要
これは、亡くなった方のご自宅敷地等がある場合に適用できる「小規模宅地等の特例」の適用を受ける場合も同様です。
租税特別措置法施行規則(一部抜粋加工)
第23条の2 小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例
8 法第69条の4第7項に規定する財務省令で定める書類は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める書類とする。
一 法第69条の4第1項第1号に規定する特定事業用宅地等である小規模宅地等について同項の規定の適用を受けようとする場合 次に掲げる書類
ハ 遺言書の写し、財産の分割の協議に関する書類(当該書類に当該相続に係る全ての共同相続人及び包括受遺者が自署し、自己の印を押しているものに限る。)の写し(当該自己の印に係る印鑑証明書が添付されているものに限る。)その他の財産の取得の状況を証する書類
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