【毎日更新】相続税専門税理士ブログ

夫婦間の民事調停は「判決等」か?相続税の更正の請求が認められなかった判決事例

相続税専門税理士の富山です。

今回は、夫婦間の民事調停が相続税の更正の請求の根拠となる「判決等」に当たるかどうかについて争われた判決事例について、お話します。

出典:TAINS(Z270-13493)(一部抜粋加工)
令和2年12月10日判決


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更正の請求って何?

まず、この判決で問題となった「更正の請求」とは何か、ということについて、お話します。

相続税の申告をした後に、
「本当はこんなに税金を納める必要はなかった」
という事情が分かった場合、一定の条件のもとで、税務署に「税額を減らしてください」と求める手続きが「更正の請求」です。

原則として、相続税の申告書の法定申告期限から1年(現在は5年)以内しか、更正の請求はできません。

しかし、後になって「裁判で権利関係がはっきり変わった」ような場合にまで、1年(5年)以内というルールを機械的にあてはめるのは酷な場面があります。

そこで、国税通則法第23条第2項では、例外として、一定の場合には1年(5年)を過ぎても更正の請求を認めることとしています。

その中の一つが、今回テーマとなった「判決等」による場合です。

条文上は、

その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となつた事実に関する訴えについての判決(判決と同一の効力を有する和解その他の行為を含む。)により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき その確定した日の翌日から起算して2月以内

であれば、更正の請求ができる、という仕組みになっています。

判決文の中でも、裁判所はこの点について、次のように述べています。

しかしながら、国税通則法23条2項は、同条1項所定の法定申告期限から1年の期間を経過した後であっても、例外的に更正の請求ができる場合があることを規定しているところ、これは、納税者において、申告時には予測し得なかった事態その他のやむを得ない事由が後発的に生じ、権利関係に変更が生じたことにより課税標準等又は税額等の計算の基礎に変更を来し、遡って税額の減額等をすべきこととなった場合に、納税者からの更正の請求を認めて、納税者の保護を拡充しようとしたものと解される。このような同項の趣旨からすれば、当該判決等が、当事者が専ら納税を免れる目的で、馴れ合いによってこれを得たなど、その確定判決として有する効力にかかわらず、その実質において客観的、合理的根拠を欠くものであるときは、同条2項1号にいう「判決等」には当たらないと解するのが相当である。

つまり、もともと想定していたのは、後から本当に権利関係が変わった場合に納税者を救済するための仕組みであって、税金を減らすためだけに形だけ作った判決や調停は「判決等」には入らない、という考え方が示されています。

夫婦間の民事調停で「自分のお金だった」と確認し、更正の請求をしたケース

この事件では、「亡くなった方(丙)」の財産を相続した「養子(甲)」と、丙から預金の死因贈与を受けた「甲の妻(乙)」が登場します。

養子(甲)名義の預金口座が解約され、その解約金と同額の金額が、亡くなった方(丙)名義の口座に入金されていました。

相続税の申告の際には、その預金は「亡くなった方(丙)の財産」として申告されていましたが、後になって、
「そのうちの297万1,754円は、本当は養子(甲)のお金だったのではないか」
という主張が出てきます。

一度は、信用金庫を相手に訴訟を起こし、裁判上の和解で180万円を受け取っています。

しかしその和解は、預金の権利関係そのものを明確にしたものとは認められず、更正の請求の根拠にはなりませんでした。

そこで原告らは次の一手として、夫婦間で民事調停を申し立てます。

調停の内容は、ザックリいうと、

 亡くなった方(丙)名義の預金の中には、養子(甲)所有の297万1,754円が含まれていたことを確認する

甲の妻(乙)は、その金額を養子(甲)に返す義務があることを認める

亡くなった方(丙)の相続税について、当初の申告の前提となっていた事実と異なることを確認する

というものでした。

そして、この民事調停(本件調停)は、国税通則法第23条第2項第1号の「判決等」に当たるとして、相続税の更正の請求が行われた、というのがこの事件のおおまかな流れです。

裁判所が「判決等」に当たらないと判断した理由と実務上の注意点

しかし名古屋地裁は、この夫婦間の民事調停について、最終的に「判決等」には当たらないと判断しました。

理由の一つは、お金の所有者の考え方です。

判決では、金銭については所有と占有が結び付いていることを前提に、次のように述べています。

養子(甲)名義の預金口座は解約され、その残高と同額が亡くなった方(丙)名義の口座に入金されている

その時点で、養子(甲)はもはやそのお金を占有しているとはいえない

したがって、その金額について養子(甲)に所有権があるとはいえない

このように、客観的な事実から見て、「養子(甲)のお金が相続財産である預金の中に含まれていたとは言えない」と、裁判所は判断しました。

さらに裁判所は、調停に至る経緯にも着目します。

まず、信用金庫との裁判上の和解を「判決等」として更正の請求に使おうとしたが、認められなかった

その数か月後に、同じ代理人弁護士のもとで、今度は夫婦間(甲乙間)の調停を申し立てている

調停の相手方である甲の妻(乙)は、養子(甲)と婚姻関係にあり、相続税が減れば双方にメリットがある立場

調停の場で、甲の妻(乙)側からの反論や証拠提出など、対立構造をうかがわせる事情は認められない

これらを踏まえて、裁判所は次のように評価しました。

したがって、本件調停は、原告らが本件更正の請求をすることを目的としてした、客観的、合理的根拠を欠くものであって、国税通則法23条2項1号の「判決等」には当たらないというべきである。

つまり、

税金を減らす目的で、夫婦が「示し合わせて」作った調停に過ぎない

中身も、客観的・合理的な根拠を欠いている

と判断され、結果として、この調停を理由とする更正の請求は認められませんでした。

想う相続税理士

更正の請求は、簡単ではありません。

後で直せばいい(直せる)と安易に考えず、最初の申告でしっかり内容を固めましょう。