【毎日更新】相続税専門税理士ブログ

相続税を間違って納税地ではない別の税務署名の納付書で納付したらどうなる?

相続税専門税理士の富山です。

今回は、納税地以外の税務署名が印字された納付書で相続税を納付した場合に、督促処分を取り消してもらえるのかが争われた裁決事例について、お話します。

出典:TAINS(F0-3-604)(一部抜粋加工)
平30-02-13裁決


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相続税を全額納付したのに督促処分?

本件は、相続税を「全額納付した」と考えていた方に、後日「督促処分」が出された事案です。

請求人は、相続税申告書に記載した納付税額を、平成29年7月18日に全額納付しています。

ただし、その際に使用した納付書の「税務署名」欄には、納税地を所轄する税務署ではない「A税務署」が印字されていました。

その結果、納税地を所轄する原処分庁は、法定納期限までに完納されていないとして、平成29年8月25日付で督促処分をしました。

請求人は「期限までに納付しているのだから、督促処分は取り消されるべきだ」として不服申立て(審査請求)を行いました。

ここでポイントになるのは、「納付をした事実」そのものよりも、行政手続上、原処分庁側が当初その納付を確認できていなかった点です。

そして、督促処分には一定の法律効果があるため、納税者としては「取り消して欲しい」と考える処分でもあります。

督促処分の取消しを求める法律上の利益がある?

本件で最終的に問題となったのは、「督促処分が取り消されるべきか」以前に、そもそも取消しを求めることについての「法律上の利益(請求の利益)が残っているか」という点でした。

督促は、国税を期限までに完納していない場合に履行を促す処分であり、滞納があることを前提に、時効の中断や、滞納処分(差押え等)につながる効果を持つと整理されています。

本件でも、その法的効果を踏まえた上で判断が示されています。

行政処分の取消しを求めるについては、処分を取り消すことによって回復される権利利益が存在することが必要であるところ、国税通則法第37条《督促》の規定に基づく督促は、納税者が納期限までに国税を完納しない場合にその履行を催告する処分であり、滞納された国税債務が存続することを前提として、当該国税債務について消滅時効を中断し(同法第73条《時効の中断及び停止》第1項第4号)、一定の期間までに当該国税債務が完納されないときは滞納処分による差押えを行うことを可能とする(同法第40条《滞納処分》、国税徴収法第47条《差押の要件》第1項)という法的効果を有するものである。

当審判所の調査によれば、上記1の(2)のロ及びハのとおり、請求人が「税務署名」欄に「■」と印字された納付書を使用して本件相続税を納付していたことから、原処分庁は、■において本件相続税の全額が納付されていたことを確認できずに本件督促処分をしたものであるが、同ホのとおり、原処分庁は、平成29年9月11日に■から本件相続税に係る納付額を引き継ぎ、それにより、本件相続税は同年7月18日付で全額納付の処理がされたことが認められる。

裁決では、その後、原処分庁が平成29年9月11日に納付額を引き継いだことにより、結果として「平成29年7月18日付で全額納付の処理がされた」ことが認められています。

つまり、督促処分が前提としていた「滞納された国税債務の存続」という状況が解消された、という整理になります。

そのため、もはや時効中断や滞納処分の対象となる地位にない以上、督促処分の取消しを求める法律上の利益はないとして、審査請求は却下(不適法)とされました。

「督促処分が正しいか誤りか」を正面から結論づける以前に、「完納となった以上、『取消しを求める法律上の利益を有しない』」というロジックで終結している点が、本件の重要な読みどころです。

相続税の納税はダイレクト納付で

相続税は金額が大きくなりやすく、納付の行き違いがあると心理的負担も大きくなります。

本件のように「払ったはずなのに督促状が届く」状況を避けるため、実務上は次の点を意識してください。

まず、納付書の「税務署名」欄が、納税地を所轄する税務署になっているかを確認することが基本です。

相続税は、原則として被相続人の死亡時の住所地(納税地)を所轄する税務署に申告・納付していく流れになるため、納付書の税務署名が一致しているかが重要になります。

次に、納付後は「いつ、いくら、どの納付書で納付したか」が分かる控(領収証書・納付受領の記録等)を確実に保管してください。

本件でも、請求人が担当職員へ「全額納付した」旨を伝え、関係税務署への確認につながっています。

そして、万一督促状が届いた場合は、慌てて二重に納付するのではなく、まず「納付日」「納付金額」「使用した納付書(税務署名)」を整理して、税務署に事実確認を取ることが重要です。

督促処分は、滞納が続くと滞納処分へ進み得る制度設計であるため、放置せずに、早めに状況を解消することが重要です。

相続税の納付先を間違えないよう、ご注意を。

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