【毎日更新】相続税専門税理士ブログ

生活費等の負担により掛金の立替分を精算した?満期共済金のみなし贈与に関する裁決事例

相続税専門税理士の富山です。

今回は、満期共済金の掛金を「誰が実質的に負担したのか」が問題となった裁決事例について、お話します。

出典:TAINS(F0-3-881)(一部抜粋加工)
令04-10-26裁決

この裁決は、農協の養老生命共済の満期共済金を受け取ったお母さんに対して、贈与税が課された事案です。

共済契約の名義はお母さんでしたが、長年にわたる共済掛金の支払いは、お父さん名義の普通預金口座から自動振替されていました。

税務署は、「掛金を実質的に負担していたのはお父さんだ」と考え、相続税法第5条1項の「みなし贈与」の規定に基づき、満期共済金の受取りは、お父さんからお母さんへの贈与にあたるとして、贈与税の決定処分と無申告加算税の賦課決定処分を行いました。

これに対しご家族側は、「掛金相当額は、妻である母が多く負担してきた生活費と精算済みで、実際に負担していたのは母の方だ」と主張し、争いになったのが本件です。


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共済の満期金と「みなし贈与」の基本的な考え方

まず、この裁決が扱っている法律の枠組みから整理します。

相続税法第5条第1項には、生命保険金や共済金について、保険事故(共済事故)が発生したときに、その保険料(共済掛金)を受取人以外の人が負担していた場合には、その部分を「贈与により取得した」とみなして課税する、というルールが定められています。

裁決では、次のような趣旨の説明がされています。

生命共済契約においては、共済契約者は、共済事業者に対して共済掛金の支払義務を負っており、一般的には、払込みの義務を負った共済契約者と共済掛金の負担者が同一になると考えられるが、共済契約者でない者が共済掛金を負担している場合もあることから、相続税法においては、この場合を予定して、取得した共済金の課税関係を規定しており、当該規定上の共済掛金の負担者とは、単に共済契約者をいうのではなく、実質上の共済掛金の負担者をいうものと解される。

形式上の契約者(名義)だけでなく、「実際に誰のお金で掛金が払われてきたのか」という実質で判断する、という考え方です。

今回のケースでは、

共済契約者・被共済者・満期共済金の受取人は、いずれも「母」
掛金の支払は、30年間にわたり一貫して「父名義の口座」から自動振替
満期共済金1,000万円は、お母さん名義の口座に入金
という事実関係がありました。

ここから、共済掛金の「実質的な負担者」をどう考えるかが、課税の分かれ目になっていきます。

「生活費で精算済み」との主張が退けられた理由

ご家族側は、「掛金は一旦、夫の口座から引き落とされていたが、妻が生活費を多く負担することで精算してきた。だから、掛金の負担者は妻だ」と主張しました。

また、税理士も、「夫婦の応分負担を超えて妻が食費や教育費などを負担し、その中で掛金相当額を立て替え返済してきた」という趣旨の答述を行っています。

しかし、裁決では、この主張は認められませんでした。

理由として、審判所は次のような点を重視しています。

夫婦間の生活費の負担割合や具体額について、明確な取り決めや客観的な資料がないこと
妻が負担した生活費等が「夫婦の応分負担」を超えていたという具体的な数字・証拠が示されていないこと
掛金相当額と生活費との精算方法については、貸し借りはないと確認する方法により行った、という説明しかなく、その内容があいまいで具体性に欠けること

裁決では、次のような結論部分が示されています。

以上によれば、本件掛金の実質上の負担者が父Dであることを否定するに足りる特段の事情があるとは認められないから、本件掛金の実質上の負担者は父D口座の名義人である父Dであると認められ、本件掛金は母Cが負担したものということはできない。

つまり、

長期間にわたり父名義の口座から掛金が引き落とされていた事実がある
それを覆すだけの「精算の具体的な証拠」が出てこなかった
ことから、掛金の実質負担者は父であり、満期共済金は父から母への「みなし贈与」と判断されたのです。

この結果、お母さんには平成29年分の贈与税の申告義務があったとされ、期限内に申告していなかったため、無申告加算税も含めた課税処分が適法と判断されています。

ご家庭の共済・保険で気を付けたいポイント

この裁決事例から、ご家庭で共済や生命保険を利用している方が押さえていただきたいポイントを、いくつか挙げてみます。

まず、「契約者の名義」「掛金を支払っている口座(実際のお金の出どころ)」が一致しているかどうかを確認することが大切です。

名義は妻、掛金は夫の口座から、というパターンは珍しくありません。

しかし、そのまま満期を迎えて多額の満期金や死亡保険金を妻や子どもが受け取ると、相続税法第5条第1項の「みなし贈与」の対象となり、贈与税の課税対象になる可能性があります。

また、「実際は妻が生活費を多く負担しているから」「家計は一緒だから」という感覚的な説明だけでは、税務上の判断を覆すには足りないという点にも注意が必要です。

今回の裁決では、

夫婦での応分負担の取り決めが具体的に示されていないこと
精算の方法についての説明が、第三者が見て納得できるレベルの具体性に欠けていたこと
などから、「生活費で精算済み」という主張は採用されませんでした。

逆に言えば、将来の課税リスクを小さくするためには、

掛金の支払口座を、実際の負担者の名義にそろえておくこと
どうしても別口座を使わざるを得ない場合には、資金移動や精算の方法を、通帳の動きやメモなどでできるだけ具体的に残しておくこと
が、ひとつのリスク管理になります。

想う相続税理士

相続税の申告でも、親族間の貸し借りがあり、それを織り込んで申告する場合、その貸し借りを証明(疎明)できるか(税務署が納得するか)ということを冷静に検討しましょう。