【毎日更新】相続税専門税理士ブログ

混同でチャラになる借入金は株式の評価において負債に計上できない?

相続税専門税理士の富山です。

今回は、遺言で「株式」「法人への貸付金」を同時に法人へ遺贈した場合に、非上場株式の時価(純資産価額)を計算する際、借入金債務(法人への貸付金ということは、法人から見たら借入金)を負債に計上することができるかが争われた判決事例について、お話します。

出典:TAINS(Z271-13567)(一部抜粋加工)
令和3年5月21日判決

普通法人に対して遺贈があった場合には、遺言者がその財産を時価で譲渡したものとみなして、その譲渡所得に対して所得税が課税されます。

遺言の効力が生じる相続の発生時に遺言者は死亡しているため、原則として亡くなった方の相続人が、代わりに所得税の確定申告(準確定申告)をすることになります。

想う相続税理士秘書


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法人に対する貸付金を法人に遺贈するとどうなる?

この判決は相続税の案件ではなく、所得税(所得税法第59条第1項)に関する案件です。

亡くなった方が、生前に自分の会社(A社)へ多額のお金を貸していました。

その方が遺言で、A社の株式と、A社に対する貸付金(貸付金債権)を「両方まとめてA社に遺贈する」と定めました。

相続(遺贈)によって、株式も貸付金も会社へ移るため、「貸付金」(法人から見た場合の「借入金」)は「貸主:法人・借主:法人」となり、結果として「混同で消滅し返済不要になる」という目論見です(受贈益に対する法人税の課税はあります)。

そこで問題になったのが、「株式の時価」を純資産価額方式で出す場合に、「混同で消滅し返済不要になる」借入金債務を、会社の負債として計上できるのか、という点です。

もし負債に計上できなければ、純資産が大きなり、株価(1株当たり価額)が高く出やすくなります。

もし負債に計上できれば、純資産が小さくなり、株価が低く出やすくなります。

この案件でも、納税者側は1株1,326円(更正の請求)を主張し、税務署側は1株2,192円(更正処分)を主張しており、金額差が大きいことが分かります。

東京地裁は、結論として「貸付金債務は、遺贈の直前時点では存在している以上、負債として計上すべき」と判断しました。

相続発生と同時に消滅しても負債計上可

税務署側(国)は、ザックリ言うと「どうせ同時遺贈で貸付金は消えるのだから、負債として見ないで株価を出すべきだ」と主張しました。

これに対して裁判所は、遺言の性質からして、そのように「確実に移る前提」で評価するのは難しい、という方向で整理しています。

ここは、本文中の判断枠組みが実務にも効くポイントなので、本文から一部引用します。

遺言は遺言者の死亡により初めてその効力が生ずるものであり(民法985条1項)、遺言者はいつでも既にした遺言を取り消すことができ(同法1022条)、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときには遺贈の効力は生じない(同法994条1項)のであるから、遺言者の生存中は遺贈を定めた遺言によって何らの法律関係も発生しないのであって、受遺者とされた者は、何らの権利を取得するものではなく、単に将来遺言が効力を生じたときは遺贈の目的物である権利を取得することができる事実上の期待を有する地位にあるにすぎない。 このような遺贈の性質に鑑みれば、遺言が作成されてからその効力が発生するまでの間において、遺贈の目的である権利が受遺者とされた者に移転することが確実であるとは通常は考え難いというべきである。

要するに、遺言は「亡くなった瞬間」に効力が出るもので、生前はいつでも撤回され得ます。

だから、「もう撤回されないはずだ」といった推測で、遺贈による将来の混同消滅まで織り込んで評価するのは、通常は相当ではない、という整理です。

そして、遺贈の直前に貸付金債務が存在しているなら、純資産価額の計算上は負債として入れるのが自然だ、という結論につながります。

想う相続税理士

普通法人は「個人」ではないため、遺贈を受けても相続税が課税されませんが、受贈益に対する法人税課税が発生し、また、冒頭にお話した「みなし譲渡」に対する所得税課税(要件を満たせば相続税の申告において債務控除可)が原則として相続人に発生しますので、ご注意を。

また、(法人から見た場合の)「借入金」「混同による消滅」で法人株式の株価が上昇すれば、他の株主に対する「みなし贈与」による贈与税課税が発生しますので、こちらもご注意を。