相続税専門税理士の富山です。
今回は、相続税の期限後申告と無申告加算税の取扱い、特に「調査通知がある前に申告したといえるか」が問題となった裁決事例について、お話します。
出典:TAINS(F0-3-690)(一部抜粋加工)
令02-02-27裁決
「期限後申告だったら何でも同じ」ではない
この事案は、相続人の方が相続税の申告期限までに申告書を提出しておらず、その後になって期限後申告書を提出したという事案です。
ただ、期限後申告であっても、提出のタイミングによって、無申告加算税の取扱いは変わります。
相続税の実務では、「期限を過ぎてしまったけれど、自主的に申告すれば加算税は軽くなるのではないか」と考える方が少なくありません。
実際、そのような場面はあります。
しかし、どのタイミングでも軽くなるわけではありません。
今回争われたのは、まさにその点です。
審判所が問題にしたのは、提出された期限後申告書が、国税通則法66条6項のいう「その申告に係る国税についての調査通知がある前に行われたものであるとき」に当たるかどうかでした。
つまり、簡単にいえば、税務署から調査に入る旨の通知を受ける前に自主的に出した申告なのか、それとも、調査の流れの中で出した申告なのか、という点が争点になったのです。
本文には、次のような記載があります。
本件調査担当職員は、平成30年7月20日に上記1(3)ヘのとおり請求人らが来署した際に、請求人らに対し、本件相続税について、納税義務の有無を確認するために実地の調査を行うことを通知した上で、質問検査等を行った。請求人らは、この質問検査等を受ける中で、持参した本件期限後申告書を提出した。
この一文が、この裁決の結論をほぼ決めています。
つまり、相続人側としては「自分たちは申告するつもりで行ったのであって、調査通知を受けたつもりはない」と考えていたとしても、審判所は、来署時に実地調査をする旨の通知があり、その後の質問検査の中で申告書が提出された以上、それは「調査通知前の自主申告」ではないと整理したのです。
なぜ相続人側の主張は認められなかったのか?
この裁決で相続人側は、いくつかの主張をしています。
たとえば、調査通知は受けていない、通知があったとしても内容が不十分だった、文書で通知されていない、申告書自体は既に作成していた、何度も相談して申告しようとしていたのだから調査は信頼を裏切るものだ、というような主張です。
お気持ちとしては理解しやすい面があります。
実際、相続税の申告では、慣れない資料集めや財産の確認に時間がかかり、税務署に相談しながら進めることもあります。
そのため、「ちゃんとやろうとしていたのだから、そこまで厳しく扱わなくてもよいのではないか」と感じる方もおられると思います。
しかし、審判所の見方は違いました。
本文では、次のように述べられています。
しかしながら、本件調査担当職員が平成30年7月20日に本件相続税について納税義務の有無を確認するために実地の調査を行うことを通知したと認められ、通則法第66条第6項に規定する調査通知がされたといえることは、上記(イ)で述べたとおりであるし、仮に請求人らがその内容を理解していなかったとしても、それだけをもって、同項に規定する調査通知がされたという上記結論が左右されることはないから、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
ここで大事なのは、納税者がどう受け止めたかではなく、法的にみて調査通知がされたといえるか、という視点で判断されていることです。
また、文書でなければならないというルールも否定されています。
つまり、書面を受け取っていないからセーフ、とはいえないということです。
さらに、申告書を前もって作っていたとしても、提出そのものが調査通知後なら足りない、という点も実務上とても重要です。
相続税の実務では、「もうほとんどできていた」「提出するつもりだった」というご事情は珍しくありません。
それでも、提出のタイミングが遅れてしまえば、加算税の軽減が受けられないことがある。
この裁決は、その点を非常にはっきり示しています。
相続税実務で押さえたい期限後申告と無申告加算税のポイント
この裁決から、実務上お伝えしたいポイントは明確です。
それは、申告期限を過ぎてしまった場合には、相談中であっても、資料収集中であっても、できるだけ早く提出の可否を判断する必要があるということです。
無申告加算税は、期限後申告であれば原則として課されます。
そして、一定の場合には割合が軽くなることがありますが、そのためには「調査通知前」に提出されたといえることが重要になります。
反対にいえば、税務署側が調査に入る旨を伝え、その後のやり取りの中で申告書を提出したとなると、納税者としては自主的に持参したつもりでも、法律上は軽減の対象外と判断される可能性があるのです。
今回の裁決でも、最終的には、調査通知前の申告には当たらず、正当な理由も認められないとして、無申告加算税の賦課決定処分は適法とされました。
相続税は、財産の内容が複雑で、土地評価や名義預金、生前贈与の確認など、時間がかかる論点が少なくありません。
そのため、相続人の方としては「もう少し整理してから申告したい」と考えがちです。
しかし、期限を過ぎてしまった後は、じっくり整えてから出すという発想が、かえって不利につながることがあります。
特に、税務署に相談に行っているから安心、申告の意思は伝えているから大丈夫、という考え方は注意が必要です。
この裁決は、相続税の期限後申告においては、「出す意思」よりも「いつ提出したか」、「その時点で調査通知があったかどうか」が大きな分かれ目になることを教えてくれます。
想う相続税理士

