【毎日更新】相続税専門税理士ブログ

過少申告加算税が家族名義の預金(預け金)はアウト、孫名義の家はセーフになった事例

相続税専門税理士の富山です。

今回は、孫名義にした家や家族名義の預金を相続財産に入れなかった場合に、過少申告加算税の「正当な理由」が認められるかどうかについて争われた裁決事例について、お話します。

出典:TAINS(J123-1-01)(一部抜粋加工)
令03-06-24公表裁決

修正申告になっても、「正当な理由」があれば、過少申告加算税が課税されません。

想う相続税理士秘書

国税庁HP(一部抜粋)
国税通則法65条4項は、修正申告又は更正に基づき納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちに、その修正申告又は更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて「正当な理由」があると認められるものがある場合は、その部分については過少申告加算税を課さないとしている。


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どんな相続と裁決だったのか

この裁決は、亡くなったお母様の相続税申告を行った相続人(かつ税理士)が、相続財産の一部を申告していなかったとして、更正と過少申告加算税を受けた事案です。

申告漏れと指摘されたのは、2種類の財産でした。

1つ目は、登記上は亡くなった方の孫の名義になっていた家屋です。

亡くなった方が生前にその家を孫に売却したという形で所有権移転登記がされており、さらに、相続人である税理士本人が、その売買に係る譲渡所得の申告書も作成していました。

2つ目は、亡くなった方名義の預金口座から長年にわたり出金され、子ども(共同相続人)やその家族名義の口座に入金されていた多額の資金です。

税務署は、これらの資金について、「亡くなった方が子どもに預けていたお金(預け金=亡くなった方から見れば返してもらう権利)」と判断し、その返還請求権(債権)を相続財産に加えました。

これに対して相続人側は、「子ども側が経済的利益を受けているのだから、相続税法9条の『みなし贈与』として贈与税の世界で考えるべきで、相続財産(預け金の債権)ではない」と主張し、また、申告漏れについては「正当な理由」があるので過少申告加算税はかからないはずだと争いました。

「預け金かみなし贈与か」と「正当な理由」の考え方

まず、「預け金か、みなし贈与か」という論点について、裁決は次のように整理しています。

亡くなった方名義の口座から出たお金が、子どもやその家族名義の口座に入っていても、

そこに贈与契約などがなく、
亡くなった方から見て「返してもらえるお金」と評価できるなら、
亡くなった方は子ども等に対して金銭債権(返還請求権)を持っていることになります。

この場合、亡くなった方の死亡時点では、「子ども側はお金をもらい切っている」のではなく、「返さなければいけない立場」ですので、「贈与があったのと同様の経済的利益の移転」とまでは言えず、みなし贈与(相続税法9条)には当たらないと判断されました。

したがって、こうした資金は「預け金(債権)」として相続財産に入れるのが妥当であり、更正処分は適法とされています。

次に、過少申告加算税と「正当な理由」についてです。

この裁決では、最高裁判決も引用しながら、次のように説明しています。

この趣旨に照らせば、通則法第65条第4項にいう「正当な理由があると認められる」場合とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である(最高裁平成18年4月20日第一小法廷判決・民集60巻4号1611頁参照)。

簡単に言うと、「本当に納税者のせいとは言えない事情があって、ペナルティとしての加算税をかけるのはさすがに酷だ」という場合にだけ、「正当な理由」が認められる、という考え方です。

単に「よく調べなかった」「共同相続人が教えてくれなかった」といった事情だけでは足りず、「できることは尽くしたが、それでも分からなかった」と客観的に評価できるかどうかがポイントになります。

孫名義の家は「正当な理由あり」だが、現金はダメだった

この裁決の大きな特徴は、同じ相続人・同じ相続でありながら、財産の種類によって「正当な理由」の有無が分かれた点です。

まず、孫名義の家(本件家屋)については、「正当な理由あり」と判断されました。

その理由として、裁決は次のような事情を重視しています。

相続開始時の登記簿上の所有者は孫であり、通常は登記名義人が所有者だと考えるのが自然なこと
相続人自身が関与税理士として、この家の売買に係る譲渡所得の申告まで行っていたこと
亡くなった方は数年前から老人ホームに入っており、当該家屋には住んでおらず、孫夫婦が住んでいたこと
別の孫も亡くなった方から土地の遺贈を受けており、「孫に家や土地を渡す」という状況自体は不自然ではなかったこと

これらの事情から、

このような本件家屋に係る相続税の申告以前の状況からみれば、請求人には、本件被相続人とKとの間の本件家屋の売買が有効に成立し、本件家屋の所有権がKに移転したと誤信せざるを得ない事情があったといわざるを得ない。

とされ、さらに、売買代金が実際には支払われていなかったことなど、売買が無効であったと分かる事情を、相続人が知り得たのは相続税の申告期限後だったことも踏まえ、「家を申告しなかったことについては、真に納税者の責めに帰せない事情がある」として、この家に対応する部分の過少申告加算税は取り消されています。

一方で、亡くなった方の口座からの多額の出金(本件現金)と、そこから子どもや家族名義の口座へ入金された金額(本件入金額)については、「正当な理由なし」と判断されました。

相続人は、亡くなった方の預金口座の取引履歴を相続税申告前に既に入手しており、大量の出金と使途不明金の存在は把握していました。

しかし、共同相続人である兄弟に口頭で数回尋ねただけで、それ以上の具体的な調査(兄弟や家族名義の口座の取引履歴の確認など)を行わないまま、「相続財産には含めない」という判断で申告してしまっていました。

裁決は、こうした対応では、「相続財産の範囲についてできる限りの調査を尽くした」とは言えず、共同相続人が協力してくれないというのは、あくまで納税者側の事情にすぎないとして、現金と入金額に係る過少申告加算税は正当だと判断しています。

つまり、

登記や過去の申告などから見て、普通なら誰でもそう信じてしまう状況だった「孫名義の家」→ 正当な理由あり
自分で取得した通帳・取引履歴から、使途不明の資金が相当額あることが分かっていた「現金・預け金」→ 調査不足であり正当な理由なし
という明暗が分かれた事例だと言えます。

想う相続税理士

今回の裁決は、相続税の申告もれがあった場合に、過少申告加算税が必ずしも機械的にかかるわけではないこと、同時に、「正当な理由」が認められるハードルがかなり高いことの両方を示していると感じます。

預貯金については、通帳や取引履歴を見れば「お金の動きがよく分からない」と気付けるような場合には、「共同相続人が教えてくれないから分からなくても仕方ない」とはならない(「正当な理由」にはならない)ため、できる限りの資料収集や確認をしておく必要があります。