相続税専門税理士の富山です。
今回は、小規模宅地等の特例における要件の一つである「生計を一にしていた」かどうかが争点となった判決事例について、お話しします。
出典:TAINS(Z270-13489)(一部抜粋加工)
令和2年12月2日判決
事案の流れと結論
亡くなった方の親族(甥で養子)が、ご自分の大工業の作業場として使っていた土地を相続しました。
相続税の申告では、「亡くなった方と生計を一にしていた親族の事業用宅地等」のパターンで小規模宅地等の特例を適用しました。
ところが税務署は「亡くなった方と養子の方は生計一ではない」として小規模宅地等の特例の適用を認めませんでした。
それに対して、養子の方は、亡くなった方の成年後見人を務め、亡くなった方の生活・財産管理を担っていた特殊事情を強調して争いました。
裁判所の結論は、小規模宅地等の特例は適用できない、というものでした。
理由の核心は、「生計一」の中身を「日常生活の経済的結びつき」に焦点を当てて具体的に判断し、同居の有無、生活費の負担状況、家計の分離、扶養親族の取扱い等の事実関係から、「生活費を共通にしていたとはいえない」と評価した点にあります。
「生計を一にしていた」との要件は、「当該土地を利用してなされる事業の収益によって被相続人と相続人(親族)の生活基盤が維持されるなど、社会通念に照らして、被相続人と相続人(親族)が日常生活の糧を共通にしていた事実を要するもの」
この定義を基準に、今回の事案では「生計一」不該当と判断されました。
「生計一」とは?判決が示した判断枠組み
亡くなった方の土地を、相続で取得した親族(養子の方)が相続前からご自分の事業のために使っていました。
このケースで小規模宅地の特例が使えるのは、その親族が「亡くなった方と生計を一にしていた親族」に該当する場合に限られます。
裁判所は次のように整理しています。
- 「小規模宅地等の特例」は担税力の減少(売りにくい・生活基盤と密接)への配慮が趣旨であり、「事業承継だから保護する」というものではない(注:養子の方は養父ではなく実父から事業を承継している)
- 「生計一」は「日常生活の経済的側面の結びつき」があるかどうか、つまり、生活費を共通にまかなっていたかどうかで判断される
- 同居の有無や扶養の申告、光熱費・食費などの支出源、家計の財布が一体だったか、養子の方の事業収益に依存していたか、などの具体的事情を総合評価する
本件では、
亡くなった方の生活費は亡くなった方名義の預金・収入で賄われていた
養子の方は亡くなった方を所得税の確定申告において扶養親族としていない
成年後見人なら生計一という訳ではない
養子の方は、「成年後見人として亡くなった方の生活面を支え、財産を管理していた」点を強く主張しました。
しかし裁判所は、後見としての貢献や財産管理それ自体は、後見報酬や寄与分の評価とは関係しても、「生計一」の根拠にはならない、としています。
原告が主張する甲の丙に対する生活面での種々の貢献や丙の成年後見人としての財産管理は、甲の丙に対する成年後見人としての報酬請求権や本件相続における甲の寄与を基礎付けるものではあっても、上記の宅地等の処分の制約や担税力の減少を基礎付けるものとはいえず、原告の主張する事情は、生計一要件を基礎付けるものであるとはいえない。
つまり、成年後見人であることは「生活費を共通にしていた」という事実の代替にはならない、ということです。
想う相続税理士
適用を検討する場合には、要件の充足を客観的な資料に基づいて理路整然と説明できるかどうかを丁寧に検証しましょう。