【毎日更新】相続税専門税理士ブログ

相続税の税務調査で自分の預金情報はどこまで守られる?

相続税専門税理士の富山です。

今回は、相続税の税務調査で、ある相続人の預金口座に関する情報を、別の相続人側の税理士に交付したことが違法かどうかが争われた判決事例について、お話します。

出典:TAINS(Z273-13812)(一部抜粋加工)
令和5年1月30日判決

相続の場面では、家族の仲が良くないこともあります。

そのため、税務署が相続税の調査を進める中で、誰のどの情報を、どこまで他の相続人側に示してよいのかは、とても気になるところです。

今回の判決は、その点について考える上で参考になる事例です。


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税務署が問題にしたのは「申告不要」という当初の説明とのズレ

この事案では、被相続人(亡くなった方)の子どもたちが相続人でした。

長男側は、当初、相続税はかからず申告は不要であるという趣旨の回答を税務署にしていたようです。

しかし、その後の税務調査で、当初の説明とは異なる事情が見えてきました。

ところが、本件税務調査の結果、①本件回答書面に記載されたもの以外に、亡戊名義の預貯金その他の財産が存在すること、②亡戊及び原告ら名義の口座について、本件相続開始前3年以内に多数回にわたる多額の出金やこの出金との関連が疑われる入金があったこと、③本件相続開始後に生命保険会社から原告甲名義の口座への入金やこの入金との関連が疑われる本件相続人ら間の送金があったことが判明した。

要するに、税務署から見ると、申告に出ていない財産がありそうだ、名義預金や生前贈与、保険金なども含めて確認が必要だ、という状況になったわけです。

相続税は、ある人だけの財産を見れば終わる税金ではありません。

相続人全体で、どの財産が誰に関係(帰属)するのかを見ていく必要があります。

そのため、税務署としては、財産全体を見ながら調査を深める必要があると判断したのだと思われます。

争点は「なぜ他の相続人側の税理士に資料を渡したのか」

この事件で問題になったのは、税務署が、他の相続人らの口座情報が記載された資料を、長男側の関与税理士に交付したことです。

口座情報は、通常、他人に知られたくない私的な情報です。

そのため、情報を渡された側ではなく、渡された情報に関する本人たちが、プライバシー侵害だとして国に損害賠償を求めました。

もっとも、裁判所は、税務調査の現場では、必要な範囲で他の相続人に関する情報が問題になること自体は避けにくい、と考えました。

相続税に関する調査においては、当該相続人等が取得した財産だけではなく、全相続人等が相続した財産に係る課税価格の合計額が明らかにされる必要があり、全ての相続人等が取得した相続財産等について全ての納税義務者が質問検査の対象となるのである(国税通則法74条の3第1項1号参照)。このような質問検査権の目的・内容からすれば、質問検査の過程において、一部の相続人しか知らない相続財産や相続財産か否かが不明な財産の存在が他の相続人に明らかになることを避けることはできないのであって、そのことがおよそ禁じられるものとは考え難い。

さらに裁判所は、今回交付された資料について、口座のすべての履歴が無制限に渡されたわけではなく、相続財産との関連が疑われる部分を選別したものだった点も重視しています。

また、交付先が単なる第三者ではなく、長男側の関与税理士であり、守秘義務を負う立場であることも考慮されました。

つまり、裁判所は、必要性と相当性がある範囲にとどまっていたかどうかを見ているのです。

裁判所は「違法ではない」と判断

最終的に裁判所は、税務署による資料交付は、質問検査権の行使として必要性も相当性もあり、国家賠償法上の違法はないと判断しました。

以上の検討のとおり、本件交付行為は、質問検査権の行使として必要性及び相当性を有するものであり、全証拠によっても、質問検査権の趣旨に照らして合理性を欠くものと認めることはできないから、国家公務員法や行政機関個人情報保護法に違反して国家賠償法1条1項の適用上違法であるとはいえない。

ただし、何でも自由に開示してよい、という意味ではありません。

今回の事案では、申告漏れの疑いがあり、さらに調査を進める必要があり、しかも交付先が関与税理士で、資料も相続財産との関連が疑われる部分に絞られていた、という事情が重視されています。

想う相続税理士

相続税の調査では、名義預金、生前贈与、保険金、親族間送金などが問題になることがあります。

そのため、相続人ごとに「自分だけの問題」と考えていると、思わぬ形で相続税の税務調査に結び付くことがありますので、ご注意を。