相続税専門税理士の富山です。
今回は、代償分割の注意点について、お話します。
事業用財産しかない場合の遺産分割
Aさんが亡くなり、相続人は長男Bさんと二男Cさんでした。
Aさんの財産は、設備や事業用不動産などの事業用財産にほぼ限定されています。
事業を継ぐのは長男Bさんのため、遺産分割ではこの事業用財産を長男Bさんが相続することで合意しました。
もっとも、事業用財産は金額が大きい一方、換金が難しいため、長男Bさんには相続税の納税資金が不足する懸念があります。
実は、事業用財産を後継者である長男Bさんが相続することになると、二男Cさんが財産を相続できなくなることを見越して、Aさんは生前に保険金受取人を二男Cさんとする生命保険に加入しており、Aさんの死亡により生命保険金が二男Cさんへ支払われました。
ここで、二男Cさんが受け取った生命保険金の半分を長男Bさんに渡す案が浮上しました。
長男Bさんの納税資金に充ててもらうことが目的です。
遺産分割協議書に「長男Bは、生命保険金の1/2と事業用財産を相続する」「二男Cは、生命保険金の1/2を相続する」と記載するのです。
贈与税が課税される落とし穴がある
二男Cさんが受け取った生命保険金の一部を長男Bさんへ渡すと、その支払いは二男Cさんから長男Bさんへの「贈与」として取り扱われます(贈与税の課税対象となります)。
生命保険金は、受取人固有の財産であり(相続財産ではありません)、原則として遺産分割の対象外だからです。
結果として、相続税の納税資金対策どころか、贈与税の負担が上乗せされ、トータルの税負担が重くなるリスクがあります。
代償分割で相続税はどう整う?
では、最初から保険金受取人を長男Bさんにしていたらどうでしょうか?
この場合、長男Bさんは事業用財産を相続しつつ、納税資金として自分が受け取った保険金を確保できます。
ここで、長男Bさんが受け取った生命保険金の半分を二男Cさんに渡す案が浮上しました。
兄弟間の公平を図ることが目的です。
上記と同じく遺産分割協議書に「長男Bは、生命保険金の1/2と事業用財産を相続する」「二男Cは、生命保険金の1/2を相続する」と記載してしまったら、今度は長男Bさんから二男Cさんへの「贈与」として取り扱われてしまいます(贈与税の課税対象となります)。
ただし、「長男Bさんが次男Cさんに対して代償分割金を支払う」という形にすれば、これは遺産分割の一環として取扱うことが可能となります。
結果として、長男Bさんの相続による取得財産の金額は、代償分割金相当額を控除した金額で評価され、二男Cさん側で贈与税が生じる取扱いにはなりません。
ポイントは、財産(事業用財産)の取得者である長男Bさんが、代償分割金を「その取得金額の範囲内で支払う」ようにすることです(取得金額を超えて支払うと贈与が発生)。
それに留意すれば、納税資金の確保と遺産分けの不公平の是正を同時に満たしやすくなります。
お金を渡すにしても、「遺産を取得した上での代償債務の履行」という形で支払えなければ、代償分割金としては取り扱われません。
想う相続税理士秘書
想う相続税理士
500万円×2人(法定相続人の数)=1,000万円
の非課税枠を適用することができます。
保険金受取人を長男Bさんにしていた場合、長男Bさんが二男Cさんに代償分割金として生命保険金を実質的に支払っても、あくまでも生命保険金を受け取ったのは長男Bさんですので、上記の非課税枠を使えるのは長男Bさんとなります。