相続税専門税理士の富山です。
今回は、相続税申告における「抵当権」について、お話します。
抵当権とは?
民法(一部抜粋)
(抵当権の内容)
第三百六十九条 抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
抵当権(ていとうけん)とは、「お金を借りる側(債務者)」が返済できなくなった場合に、「お金を貸す側(債権者)」がその借金を回収する手段として、不動産などを競売にかけて優先的に弁済を受けることができる権利です。
Aさんが亡くなり、唯一の相続人であるBさんが、抵当権が設定されているC土地を相続したとします。
この場合、抵当権の対象となっている借入金の返済が滞ると、C土地は債権者によって競売にかけられ、その売却代金は債権の回収に充てられます。
抵当権が設定されていると相続税が安くなる?
C土地の隣に、同じ面積・同じ形・同じ路線価のD土地があり、そのD土地には抵当権が設定されていないとします。
C土地は「借入金の返済が滞った時に競売にかけられてしまう土地」なのですから、相続税申告において、D土地よりも安く評価できるのでしょうか?
C土地は抵当権が設定されているからと言って、相続税評価額が安くなることはありません。
亡くなった方の債務がある場合
Aさんが住宅ローンを組んでいて、その返済の担保としてC土地に抵当権が設定されていたとします。
言い換えると、Aさんには住宅ローンという債務があり、その債務の担保としてC土地に抵当権が設定されている、ということになります。
この住宅ローンは唯一の相続人であるBさんが引き継ぐことになりますが、相続税の申告上は、プラスの財産からマイナスすることができます(「債務控除」と言います)。
住宅ローンがマイナスできるのですから、抵当権が設定されているからと言って、C土地の評価額もその分減額してしまったら、二重にマイナスするようなことになってしまいます。
ですから、C土地の評価額はそのままです。
亡くなった方以外の債務の担保になっていた場合
親族Eさんには金融機関からの借入金があり、その返済の担保としてBさんが相続したC土地に抵当権が設定されていたとします。
この場合、借入金の返済が滞ると、C土地は債権者によって競売にかけられ、その売却代金は債権の回収に充てられます。
このような場合、Bさんは「物上保証人」なので、親族Eさんに対して、C土地を失った損失を請求することができます(「求償権」を有します)。
したがって、理屈上は、C土地を失っても、代わりに「求償権」を有することになるので、C土地は安く評価できない、ということになります。
想う相続税理士
そういう意味では、このようなケースでは、C土地を安く評価してもいいような気がするかもしれませんが、相続開始時点において損失が実現している訳ではありませんから、原則として、C土地を安く評価することはできません。