相続税専門税理士の富山です。
今回は、お子さんがいない場合に相続人が誰になるのか、申告期限までに何をしなければならないのか、手続きが長引きやすい場面と対処の考え方について、お話します。
子どもがいないと「相続人」が変わる
相続税の申告を考える場合、最初に確定すべきなのは「誰が相続人か」です。
お子さんがいる場合は、配偶者とお子さんが中心になることが多いです。
一方で、お子さんがいない場合は、相続人の範囲が大きく変わります。
配偶者がいる場合でも、配偶者だけで完結するとは限りません。
例えば、亡くなった方のご両親がご健在なら、配偶者とご両親が相続人になります。
ご両親が既に亡くなっている場合は、次に「兄弟姉妹」が相続人になるのが基本です。
さらに、兄弟姉妹が既に亡くなっている場合は、その兄弟姉妹のお子さん(甥・姪)が相続人となることがあります。
このように、お子さんがいない相続では、相続人が遠方に住んでいたり、普段ほとんど連絡を取っていなかったりして、手続きが始まった時点で初めて顔合わせすることも珍しくありません。
その結果、遺産分割の話し合いに時間がかかりやすくなります。
相続税申告で「詰まりやすい」実務ポイント
相続税申告は、財産の評価だけでは終わりません。
お子さんがいない場合に特に詰まりやすいのは、次の3点です。
1つ目は、戸籍収集と相続人の確定です。
兄弟姉妹や甥・姪が相続人になると、戸籍をたどる範囲が広くなりがちです。
「相続関係が確定しないと申告書が作れない」というより、相続関係が曖昧なままだと、遺産分割協議書も作れず、金融機関や法務局の手続きも進みにくくなります。
2つ目は、遺産分割協議がまとまりにくいことです。
兄弟姉妹が関与する相続では、配偶者の生活保障と、兄弟姉妹側の納得感がぶつかりやすい場面があります。
さらに、相続人が複数人になるほど、署名・押印の回収だけでも時間がかかります。
3つ目は、「申告期限までに分割が決まらない」リスクです。
相続税の申告期限は原則として10ヶ月です。
遺産分割がまとまらなくても、申告自体は期限内に行う必要があるため、いったん法定相続分などで仮の計算をして申告・納税する形になりやすいです。
この場合、配偶者がいるケースでも、分割の内容が確定していないことにより、「配偶者の税額軽減」の適用が受けられず、いったん納税額が大きくなる展開になりがちです。
後から分割が成立して税額を調整できる場面もありますが、資金繰りや心理的負担は重くなります。
預貯金が凍結されることにより、相続税以外の実害が先に出ることもあります。
子どもがいない相続をスムーズに進めるための考え方
ここからは「申告の場面」で現実的に役立つ考え方を整理します。
まず重要なのは、遺産分割の前提として「情報の見える化」を先に行うことです。
財産目録を作り、預貯金・不動産・有価証券・保険・負債などを一覧にします。
相続人全員が同じ情報を見て話し合える状態にしないと、疑心暗鬼が生まれ、合意形成が遅れます。
次に、配偶者がいる場合は、配偶者の生活設計(住まい・当面の資金・今後の収入)を、感情論ではなく数字で整理して共有することが有効です。
兄弟姉妹側も「配偶者の生活は理解するが、どこまで配偶者に集中するか」は論点になりやすいので、落としどころを探すためにも、まずは現状把握が必要です。
また、相続放棄という選択肢が話題に上がることがあります。
ただし、相続放棄は「税金だけを理由に軽く選ぶもの」ではありません。
民法上の相続人としての立場そのものが変わり、次の順位の相続人に影響が波及します。
結果として相続関係が複雑化したり、別の相続人に想定外の負担が移ったりすることもあります。
さらに、「遺産に係る基礎控除額」(相続税の非課税枠)などは相続人の数が関係するため、「放棄すれば必ず得」という単純な話にもなりません。
早急に戸籍関係を集め、財産状況を固めた上で検討しましょう。
相続放棄により、具体的に何がどうなるか、分かるハズです。
そして、将来に向けた視点としては、遺言書の重要性が高まります。
お子さんがいない場合、相続人が配偶者と兄弟姉妹(または甥・姪)に広がりやすい構造にあります。
兄弟姉妹(または甥・姪)には遺留分がないため、遺言書のとおりに遺産分けをすることが可能となります。
加えて、配偶者が先に亡くなった場合や、受遺者が受け取れない場合を想定した書き方(いわゆる予備的な指定など)まで意識しておくと、手続きの混乱をさらに抑えやすくなります。
想う相続税理士
また、お子さんがいない、というのが、お子さんが親御さんよりも先に亡くなっている、という場合、そのお子さんの子(つまり孫)が相続人になったりしますので、ご注意を。
